燻製肉
昭子と熊は互いに迫っている。
熊が出会いがしらに殴ろうとするが、その前に昭子の蹴りが熊の顔面に突き刺ささり、動かなった。
一発KOであった。
『翔ちゃん。終わりましたよ。今から解体しますが見ます?』
「⋯⋯昭子って本当に介護アンドロイドなのか? いくら何でも強すぎる気がするんだけど」
『あらゆる場面を考えると、力が強いと様々な事柄に対処が可能になるんです。それより解体みます?』
見る見る~! っと同意し、昭子の熊解体作業を見ることにした。
刃物については城内にあった鉈包丁をどうにか改修したものを使っている。改修しなくては歯切れが悪くて使い物にならなかったのだ。ついでに持ち手部分も腐っていた。
砥石が無いので岩で研いだ、っと昭子が言った鉈包丁が熊の首に刺さる。熊はグゲェ! っと断末魔を響かせたって⋯⋯え?
「こいつまだ死んでいなかったの?」
『気絶させただけでしたからねー。今息の根を止めてやっています』
「⋯⋯やっぱ俺、見ないわ」
そうですかー、と言う昭子を背に向けて俺は座った。
◇◆◇◆◇
ぼーっとしているうちに、熊の解体は知らないうちに終わっていた。
昭子に血抜きはちゃんとしたのか聞いてみたが、ちゃんと抜き終わっている、と返答が来たので相当時間が経っている事が分かった。
食べれる部位は既にコンパクトに切り終わっており、食べられない部位も処分し終わっている。処分方法は地面に埋めた感じらしい。
そして、現在。昭子がしているのは、
「燻製肉作り?」
『えぇ、まずは燻製機作りをしているところです』
昭子が作っている燻製機は立体三角形の骨組みを木の枝で作っている物にしか見えない。それが現在5つほど並んでいる。
俺はその間に肉の仕込みを頼まれた。なんか知らないうちに用意されていた塩を肉に掛ける作業。血抜きされてあるとは言え、いまだ血が滲む肉を触るのは個人的には色々と思うことがあったが、頑張って塩を揉み揉みした。
昭子が10つ目の燻製機を仕立て終わると、肉揉み揉み作業に混ざった。
一緒に揉み揉み作業を行う。もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ。
揉み終わった肉はいつの間にか用意されていた糸で縛り上げる。形をこれで作り上げるらしい。
『じゃあ燻製しましょうねー』
そう言っていつの間にか用意されていた木の葉に火をつける。火のつけ方は原始的な木を擦って付ける物だ。
火がつけられた木の葉が燃え上がるが、たいして煙は出ない。だが、なんか昭子がわちゃわちゃ動いて、良く分からないうちに煙が出た。
『じゃあ翔ちゃん。お肉を並べてくださいねー』
「はいはい」
『はいは一回!』
「あー小学校の時に良く言われたわソレ」
燻製機の網目の台に肉を並べる。煙が目に入って痛いとか泣き言を言ったら、昭子が目隠しをくれた。俺に作業させるなって暗に言ってもニッコリと笑顔を返されるだけなので諦めて肉を並べる。
こいつは本当に介護アンドロイドとして失格なのではと思っているうちに作業が終わる。
『燻製は大体一晩で終わりそうですね』
「そんな掛かるのか⋯⋯」
『残念ながら簡易的な燻製機なので、その分時間をかけないといけないんですねー。さて、今日の夜ご飯はお肉ですよー』
熊の肉は異常なほどに美味だった。とにかく美味しいと言うワード以外でこの旨さを表現できる気がしないほど美味だった。油ですら残さずなめ切りたいと思えるほどであった。
こんな肉が燻製肉となると⋯⋯一体どんな味になるのか。とても楽しみな感じで寝た。
そして起きて、朝ごはんとして完成したばかりの燻製肉を食べて、
「⋯⋯不味くはないし、美味しい方だと思うんだけど、何かなぁ⋯⋯」
微妙に味の落ちた燻製肉に少し悲しみを感じた。
◇◆◇◆◇
燻製肉が完成して数日後、荷台が完成した。
荷台は、屋根付き寝床を兼ねた万能性テントだ。完全木製。車輪すら木製。窓はあるがガラスは無い。城にあるガラスを流用する事も考えたが、安全性を考え木製だ。つまり窓は完全に閉めるか開けるかだ。ドアもそうだ。
前方には木の棒が二本突き出ており、その先は昭子が荷台を引っ張るゾーンになっている。そこはベルトのように紐が結ばれており、そこに昭子は結ばれる予定だ。
それは、昭子は俺を背負いながら荷台を引っ張るので、それを両立するための機構なのだ。
荷台には道具類、干し肉、飲み水などを昭子が作成した家具と共にに詰められている。
布団なども昭子の手によって既に作られている。どうやら木綿で作ったらしいが、いつ作られたのかさっぱり分からない。というか木綿って何処に生えていたの? この世界じゃあ見たことないんだけど?
変えの服も木綿で作られている。4着ほどあり、着心地が良い。下手な服よりもよっぽど良い。昭子うでが良すぎない?
そして、荷台が完成し、荷物が積み終わった次の日の朝。俺たちは出発する。
⋯⋯昭子がいたからこそ、こんな物をいっぱい用意できた。きっと俺だけ転移したら直ぐに死んだんだろうな。
そんな事を思いながら、俺は昭子におんぶされる。荷台には乗らない。荷台の車輪は完全木製なので揺れがひどいのだ。
『じゃあ、翔ちゃん。忘れ物とかないですか?』
「俺の私物は今着ている服ぐらいっつーの」
昭子が走り始め、荷台の車輪が回り始めた。
向かう先は、日記に書いてあった港町だ。
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