日本語であそぼ

「いや、この本どっからどー見てもノット日本語やん」

 俺は昭子に反論した。

 念の為に本の文字を見てみるが⋯⋯さっぱり分からない。どっからどう見ても日本語ではない事しか分からない。

『これは日本語ですよ翔ちゃん』

 しかし、昭子は日本語だと言う。

『確かにこの文字は日本語ではないでちゅけど、これは別の文字に置き換えてあるんでちゅよ』

「その赤ちゃん言葉で解説すると頭に入ってこないから止めてくれない?」

『⋯⋯とにかく。この文字は別の記号で置き換えてあるだけです。例えば、この《Oオー》ぽい文字。これはカタカナの《サ》にあたりますね』

「え、これサなのか?」

『はい、この本に書かれてある文字は、平仮名、カタカナ、ローマ字の小文字と大文字。数にして83+83+26+26=218文字しかありません』

「⋯⋯平仮名って50個じゃなかったっけ?」

『翔ちゃん。五十音表に乗ってある平仮名は48文字ですよ。あと、小文字の『っ』とかを忘れてません?』

「あ、そうか」

『この文字たちの組み合わせは218の階乗。つまり4.7402663676103×10の416乗ほどしかありません。気づいてしまえば27分ほどで計算が可能です』

「へー」

 桁が多すぎてどう反応すれば良いのか分からねぇ。まぁ出来て助かったのは確かだし喜ぼう。わーい。

「で、何が書いてあったんだこの本?」

『日記ですね。大体2年半ほどの日記です』

「図鑑じゃあないのか? ほら、図解とかあるし」

『絵日記みたいなものです。道中で出会った生物に対してスケッチしていたみたいです。あと最終ページに此処の島の地図を乗せているでしょう? そこに現在地を定期的に載せていますね』

「なるほど。っとなると何か人が居そうな記述でもあったのか?」

『ありましたよ』

 ――よっしゃ!

 俺はガッツポーズを繰り出した。全身からあふれ出る力により繰り出した。

『ただ今現在、人がいるとは限りません。日記では、この城に人が居たという記録が書かれていましたので、これに書かれていた時代から時間がそこそこ過ぎていると考えれます』

「いやでも、なんも宛無しで異世界を探索するよりはマシだ!」

 しかも、この本は何故かは知らんが日本語の置換で書かれている!

 ならば日本人が過去に転生してきたのかも知れない。そこを辿っていければ日本に帰れるかもしれない!

 俺は本の最終ページ。四国ぽい島の地図が描かれているページを昭子に見せて問う。

「じゃあ、さっそく人のいる場所に行こうか! 何処に人がいる?」

『本によると、此処から西側⋯⋯この本の絵の左側あたりに港があるという記述がありますよ』

 その場所は、ちょうど俺らとは正反対とも言える場所であった。

「これ、歩いてどんくらいで着くんだろうか?」

『この本だと、だいたい1年ほど掛かっていますね』

「は?」

『まぁ実際はもう少し早く行けますよ。この日記の著者は色んな所をグルグル回りながら此処に来てたみたいですし。あと、私が翔ちゃんを背負って走るので⋯⋯一か月位でしょうかね』

「一か月かぁ⋯⋯」

 それでも相当長い日時だなぁ。しかもおんぶでだろ? やだなぁ。以外と昭子の乗り心地は良い事は既に知っているんだが、もう少しちゃんとした物に乗りたい。なんか車みたいな乗りものでもないものか。

 そう考えていると、一つ妙案が浮かび上がる。

「よし、昭子。まずは馬車でも作ろうぜ。移動時に俺が寛いで居られる所が欲しいんだ、昭子が走って引っ張ってくれ」

『それは難しいかと』

「いや、素材なら木が山ほどあるだろ? なんか問題でもあるのか?」

『作れはしますが、サスペンションなどが木では再現不可能です。とても寝られるような物には出来ないかと』

「サスペンションってあれか? バネっぽい部品で出来た⋯⋯揺れを吸収したりする部分か?」

『おおむねそんな物かと。⋯⋯過去サスペンションが無かった時代の馬車は、それはそれは酷い物であったと私の脳に記録されています』

「そうなのか。なんでそんな事は記録されているのに転生装置の緊急停止方法マニュアルは記録されていなかったんだろうな」

 知りません、っと回答する昭子は、しかしと前置きをして次の言葉を口に出す。

『馬車を作るという、この案自体はアリであると私は思います。ここで精一杯つくれる馬車をつくったとしても、とても人が乗れるものではないのは確かです。ですが逆に言えば人じゃなければ乗せられるんですよ』

「あー、馬車を荷台的な物にするって事か」

『その通りです翔ちゃん。ここで旅する準備を整えてからそれを荷台と共に出発するプランです』

 その準備とは、安心できる寝床制作キットや、保存食などの制作だ。これらがあれば、安心して旅たてると昭子は言う。

「じゃあ準備しようか。昭子任せるわ」

『はい翔ちゃん。まずは一緒にこの城から出ましょうね』

「え、俺もやるの? 役に立たないよ」

『はい知ってます』

 正直に言われると、それはそれで傷つく。

『ただ、暇になって何処かへ行って、また襲われたらと心配なんです』

「すみませんでした」



 ◇◆◇◆◇



 俺と昭子は城の門を開けて、さっそく素材集めをしようかと外に出た、その時。

 ――空が急に、暗くなった。

 昼間から夜に急転。あんなにも晴天で太陽が上空に存在していたはずなのに、その姿は数秒も持たないうちに黒に染まったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る