夜
昼間から夜に急転。黒で染まる空を見上げてポカーンと口を開けて唖然するしかなかった。先ほどまで太陽があった位置に月が存在している事を認識するしかできなかった。
「は?」
そんな疑問を孕んだ音を出すのに数分が掛かった。
いやだって、急に夜がやって来たんだぜ? ビビるわ。いやマジで何でこうなるんだよ。
『翔ちゃん。一度、城の中に戻ったほうがいいですね』
「あ、ああ⋯⋯」
昭子もどうすれば良いのか考え付かなかったのか、そう口に出し、俺も同意した。
◇◆◇◆◇
城の中。先ほどまでキノコを調理していた竈に、昭子は火を灯して視界を確保する。
『さて翔ちゃん。急に夜になってしまったのは⋯⋯どうすることができません。ただまた太陽が現れるのを待つしかないでしょう』
「そうだよなぁ⋯⋯」
俺はため息をつく。
空が黒く染まったので、周りが良く見えない。素材集めが出来なくなった。
つまり、やる事が無くなってしまった。
やる事が無くなってしまったのは痛い。何が痛いって、暇になってしまった事だ。
急に夜になったからと言って、人間は急に眠くはならない。だからといって、その暇を今すぐ潰せない。苦しい。
『暇つぶしなら本を読み聞かせてあげましょう』
「本って何の本だよ」
『この本です』
そうして見せてくれたのはあの本。日本語で書かれているらしき日記帳だ。
『意外と山あり谷ありで冒険譚として楽しめるでしょう』
まぁこの際、確かに丁度いいのかもしれない。やることなく、暇つぶしのできる本はこれしかない。
しかも、俺はこの本を一人で読むことが出来ないのだ。言葉が日本文字ではなく別の記号で置き換えられているので、俺では読めないのだ。昭子の手助けなしでは。
「じゃあ頼む」
『では』
そう言って昭子は、俺の頭を膝に乗せたっていつの間に! 俺が瞬間的に光景が横90度回転した事に困惑している、その間に昭子は日記を読み始める。
『4年目、123日目。
前回で二冊目が終わったのでこの本に継ぎ足して行くことにする。あの蝙蝠熊の肉がついに切れた。美味で日持ちも良い、旅食向きの肉が切れたことにより私は地に体が転げ落ちる位の衝撃を受けた。あの肉を口に入れない日が来る事を考えないわけでは無かったが、とにかくとにかくショックで辛くて、苦しかった』
「なんかコイツひたすら肉に対して感情を爆発させてるぞ」
『あと7行くらい続いていますね』
「飛ばしてくれ」
というか蝙蝠熊って、あいつか? 俺が一人で石を動かす、てこの原理用の木の枝を探してた時に会った、あの背中に翼が生えていた奴か?
『そうみたいですね。絵もバッチし描いてますよ』
「マジじゃん」
となると、昭子が熊をあの時そのまま倒していたら、俺は美味しい熊肉を食うことが出来たって事か?
『そうですね』
俺はショックのあまり糞デカため息が出た。いやぁさ? 俺の主食が今んとこキノコやん? 無味無臭のスポンジみたいな感触のキノコなんだよ。いい加減美味しい物が食いたいなって。
『また何時か、会った時に倒してあげますから、すねないでくだいよ翔ちゃん』
すねてねーし?! ただ、少し欲望に正直なだけだし!?
そんなこんなで、俺は昭子に本の続きを勧め、昭子は本を訳しながら話してくれた。
◇◆◇◆◇
昭子が日記を読み進めて1時間が経過した時。気になる単語が昭子の口から漏れ出た。
「魔法?」
その単語に思わず反応をしてしまった。
「昭子、今魔法って言わなかったか?」
『ええ、言いましたが』
「やっぱ魔法って言うのがあるのか、この世界には!」
ファンタジーな生物が居るのを認知した時から「もしかして」っと思っていたが、やはりあったか魔法!
やっほいと喜ぶ俺を見た昭子が、ほほえましい光景を見たと微笑む。
『ありますよ魔法。翔ちゃんは魔法がすきなの?』
「あたりまえ! やっぱ男というか人間なら魔法にあこがれるモノさ! うなれ俺の火炎魔法!! って叫びたいんだよ全人類!」
『なら、使ってみます? 魔法』
「え、出来るもんなの? もしかして書いてあんのこの本に魔法の使い方?」
昭子は俺の言葉に査定する。
マジかよ! 使えるんだ魔法!
「使いたいぞ! どうすれば良い!」
『まず服を脱いでください』
いきなり何言ってんだこのアンドロイド。
『翔ちゃん。この世界でいう魔法は、私達の元の世界には存在しえないものを動かしたりする技術です。つまり、翔ちゃんの今の体では魔法が使えないんです』
「それじゃあ、魔法が使えるように体を改造でもするのかよ?」
『まぁそんな認識で合っています。改造って言うほどでもなく⋯⋯ハンターハンターの念みたいに覚える、って感じですね』
じゃあ魔力っぽい物でも俺の体にさらされるのか? ⋯⋯まぁどうでもいいか! とにかく魔法だ。魔法が今すぐにも使いたい!
俺は上着を脱いで、パンツ一丁スタイルに進化した。
「良く分からんが、やってくれ!」
『パンツも脱いでね翔ちゃん』
俺は服を昭子に投げつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます