ドラゴンをすり抜け、城に到着した俺と昭子。

 城の中は静かだった。

 ていうか人というか、生き物すら居なかった。

「⋯⋯昭子、どこかに誰かが居る気配はあるか?」

『音は無いですねー。呼吸音すら聞こえないので多分いませんが、一応用心した方が良いと』

「じゃあ、一緒に城の中を回るか」

『はい翔ちゃん。翔ちゃんはお母さんが守りますからね』

 回ったが人は居なかった。

 


 ◇◆◇◆◇



「いや、どうすんだよ」

『どうしましょうかねー』

 俺たちは城の厨房でキノコを炒めていた。なんと鉄製のフライパンで焼いている。この城を作れるほどの文明が確かにあった証拠だ。

 残念ながら食糧はなかった。あったとしても何時作られたのか分からない謎の瓶肉のみ。昭子が確認するまでもなくヤバいと分かるほど変な色をしており、とても食べれそうもない物であった。

 まぁつまり、あの糞不味くて、苦みを消したら無味無臭になるキノコを食べるしか選択肢がなかったのだ。つらい。

『あのキノコは栄養素満点なので、翔ちゃんの食事がキノコだけでも十分なのですが』

「やだよ」

『流石に飽きますよねー』

 とりあえず肉を食いたい気分だった。いや肉じゃなくても良い。野菜でもなんでも良い。よく分からない物でも良い。とにかく美味しい物を口にしたいのだ。無味無臭は食事ではない。栄養補給そのものだ。

 その苦痛から解放されたいのだが、なんとこの世界では小鳥などの子動物は今のところ一切見つかっていないのだ。

 じゃあ熊とかドラゴンはどうやって暮らしているんだって思わずにはいられないほどに見つからない。つまりキノコで過ごすことになりそうつらい。

「あとは⋯⋯本だよな⋯⋯」

 なんと俺たちはこの城で既に本を見つけている。

 ただ、問題点があるとすれば一切読めない事だ。

 文字が全くと言って程、身に覚えのない物であったのだ。いや似たような形の文字はあるのだが、そのほとんどが地球上で見られる、あらゆる文字とはかけ離れたものだったのだ。

『時間をかけても良いのなら、ある程度は読み取れそうですが⋯⋯』

「え、出来んの?」

『はい翔ちゃん。挿絵もありますし、ある程度は』

 挿絵あるんだコレ!?

 俺は慌てて本をペラペラめくると、あったは挿絵。白黒で美麗な鳥とかの生き物が書かれた絵とかが載っている。

 あったよ、挿絵あったよ。

 そのままペラペラと本の中身を確認していく。数十ページに一枚程度に挿絵があり、かなりの頻度で挿絵が出てきていた。

 どれの挿絵も動物というか生き物関係の絵が殆どだった。

 そんな中、たまに人間型の生き物が描かれてあり、その絵に目を奪われる。

 ゴブリンみたいな小人、オークのようなデカブツ豚、コボルトのような犬頭、そしてエルフのような耳長などなど。

 残念ながら、完全な人間そのものが描かれていることはなかったが、この世界はそうとうファンタジーな異世界であると理解できた。

 ほんとマジファンタジー。ここに乗ってある生き物全般、全て何処かで見たことがある造形をしているのだ。主にRPGとかで。

 熊に羽が生えた奴みたいに今まで見たことのない物もある。だが、そうであったとしても認知している動物から大きく姿を変えることはなかった。

 人間が生きることが出来る異世界っていうだけでも珍しいのに、更にめちゃくちゃ珍しい可能性を引いていたのか俺。そんな確率を此処で引く位なら現実世界で宝くじ当たってくれた方が嬉しいわ。

 そして、最後のページには、

「世界地図かコレ⋯⋯?」

 なんか四国っぽいものが描かれてあった。

 その地図らしき絵には記号が多数書かれており、何かを示している。

 ⋯⋯この本が動物図鑑的な物だとしたら、生き物分布図だろうか?

 そう仮定して生き物絵が載ってある挿絵に戻ると――あったよ記号が!

 この挿絵の記号と、地図の記号がリンクした物だとすれば、分かるかもしれない、俺たちの場所が。

「俺があの時あった熊のページは⋯⋯!」

 パラパラめくり、挿絵を探す。あの熊を探す。

 俺がてこの原理をやるために木を探している時に会った熊を探す。何か後ろに羽が付いていた熊を探す。昭子が助けなれば俺の命は無かっただろう熊を探す。かわいそうなくらいにボコボコにされた熊を探す。

 そして、見つける。

 その熊であろう絵には、都合の良い事に記号が一つしか付いていなかった。ゆえに、コイツがいる所が俺たちが居る所だ。

「⋯⋯右端のところか」

 これが本当に分布図であれば、俺たちは四国っぽい大陸の右端にいるらしい。

 


 ◇◆◇◆◇



 まぁ、分かったところで何もできないんだけどな。

 俺は虚無の味がするキノコを食べながらそう思った。

『いや、そうでもありませんよ翔ちゃん』

 その翔ちゃんって呼ぶ奴、いい加減あきてくれんかな。そう思いながら続きを勧める。

 すると昭子は本を片手で持ちながら言う。

『この本の解読が終わりました。これは日本語で書かれています』

「は?」

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