火炎系
とりあえず俺達は城へ向かう。
まぁ歩くのは昭子だけで、俺は一切歩かないのだが。俺はおんぶしてもらうぜ。歩くのだるいし、足が痛くなるし。昭子だけが歩く方がはるかに効率が良い(俺をおぶったまま走れるので)
ものすごい勢いで風景が変わる。岩ばかりだったのがあっという間に森の中へ様変わりする。
そんな中、俺はあることに気づく。
――太陽の位置かわって無くね?
あらからどれほど時間が経っているのかは知らない。しかし、それにしたって太陽の位置が真上のまま変わっていないのは、おかしいだろう。
「昭子、今何時か分かるか?」
『分かんないでちゅ「そういうのはいいから」⋯⋯転移が終わってから6時間は経過しましたね』
「ああ、じゃあ」
『ええ、この世界には多分、昼間しか存在しません』
これは喜ぶべきなのかどうなのかは分からない。けど今現在たすかっているのは確かだった。だって夜が無いから空が暗くならない。よって光を人為的に作らなくても不便は今のところは無いのだ。
『しかし、そうなると色々疑問が出てきますね』
「疑問ってなんだよ」
『分からないでちゅか~』
「止めて」
俺の懇願もむなしくスルーされて、赤ちゃん言葉のまま、疑問の解説に入る。
いわく、温度が日本の秋ほど位になっている事がおかしいらしい。太陽が年がら年中、地表を照らしていれば温度は制限なく上がり続くのにと。
『この考えを否定できる仮説はいくつか有まちゅが、そのどれもが奇跡的な確率で起こっているしか思えない物なんでちゅよ』
「異世界転移で日本とほとんど同じ環境のところに行けたこと自体が奇跡だから考えなくても良いんじゃない? 後、言葉直してよ」
『まぁ! 翔ちゃんったら天才!! 大ちゅき!!』
さっき時間を聞いた時には、赤ちゃん言葉を直してくれたのに、なんで今は直してくれないのだろうか。つらい。
◇◆◇◆◇
目の前にドラゴンが居た。赤い。寝てる。それはもうグースカ寝ており、鼻提灯の代わりに、鼻から赤い炎を定期的に噴き出している。
俺は思わず言葉を漏らす。なんであんなところに寝ているんだよと突っ込みたくなる。
そうなんだよ。あのドラゴン、泉のど真ん中で寝ているんだよ。水に体を沈ませながら寝ているんだよ。
お前、どっからどーみても火炎系ドラゴンだろ。水に浸って平気なのかよ。炎タイプは水タイプに効果抜群を取られるんだぞ。
『昭子お母さんには、あんなポケモンは見たことないでちゅねぇ』
「⋯⋯というか、どうするんだよ昭子。あの泉を越えないと城には辿り着けないぞ」
俺は昭子の言葉を無視しながら疑問を口に出す。
俺たちが今目指している城。それは泉の中に建っていた。それは良い。
問題なのは、その城へ行ける唯一の橋にドラゴンが頭を乗せているのだ。これならドラゴンは水に漬かりながら寝ても、呼吸が安心して出来る。超頭いい。
『あのドラゴンの頭はでっかいでちゅけど、橋を覆いつくす程ではないでちゅし⋯⋯横をそろそろ歩きまちょう』
そういうことになった。
俺らは歩く。俺は昭子にライドしたまま。昭子なら足音を出さずに歩けるからだ。俺が慣れない歩き方するくらいなら、確実な動作を保証する高級介護アンドロイド昭子に全てアウトソーシングしていけ。
昭子が不気味なほど無音で橋を歩く。何故か布すれの音すら聞こえない。なのに歩くスピードは若干早歩き程度を維持している。
数分経過。ドラゴン顔の真横にまで到達した。
大きい。鱗のがびっしりと埋まっている顔を見て、なんだか感動を覚える。なにせ現代日本にはこんな生物は居ないし、居たとしてもバーチャルリアリティの中だけだ。
VR以上のものが目の前にある。それだけで心が躍り始めた。
すげぇな。もう少し見てみたいな。口臭とかどうなっているんだろう。
そう思い始めたとき。――ぶもぉっと火炎がドラゴン鼻から噴き出た。
「あつっ――!」
その炎は丁度真横に居た俺らに当たる。いや、当たる寸前だった。
当たる前に昭子が前へ駆けたからだ。だが、これによって物音を出してしまう。
つまり、ドラゴンは目を覚ます。
「うっ」
眼球が開かれる。その眼球はぎょろりと此方を向き、ドラゴンは、
「――ぐきゅう⋯⋯」
二度寝を始めた。
⋯⋯あれ?
「寝ちゃったんだけど、あのドラゴン」
『まぁ、近くにアリが歩いていたとしても、気にしない人はいっぱい居ますからねー』
昭子の言葉に俺は納得した。
そうだよな。あのドラゴン俺らの何倍もあるからな。そんな奴がいちいち俺らを気にするかと言われたら、ノーだよね。
というか物音もあのドラゴンから見たら小さいよね。そんなので起きるはずもないよね。多分寝ぼけていて、たまたま偶然近くで起きただけかな。
そんな事を思いながら俺らは城の前まで到着した。
◇◆◇◆◇
門が目の前にある。木で出来ており、一部金属で補強されている感じの門だ。多分そのまま降りて橋としても活用される門だろう。
つまり、このままだと行けないのだが、
『翔ちゃん。しっかり捕まっていて』
昭子がジャンプで飛び越えました。
後ろにドラゴンが居るから助走は出来ない。だからか昭子は立ち幅跳びみたいに飛んだ。
すなわち瞬間的に加速したので、殺人的な加速度が俺を襲ったが、俺の頭がグワングワン気持ち悪くなった位で、何とかなった。
物音の方でドラゴンがもう一度目覚めたが、また寝た。平和ですね。
まぁとにかく、城に到着したのだ。
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