クッキング
雲がちまちまとしか見つからない晴天の空の下で、クッキングが始まる。
俺と昭子の前には、食材が並び、その横には食器が置かれている。
ただ、食材というには質素かもしれない。キノコと木の実くらいしかなく、お肉は無い。これから作られるものはかなり単純な物になるという事が調理前から良く分かった。
「これで何を作る気なんだ?」
『何を作ると思います?』
質問を質問で返すなよ。そんな感情を目に込めて昭子を見つめると、ふふふっと笑い返してきた。何だコイツ。
『ある程度この食材の味見はすんでいます。このキノコは生では苦みが強いですが煮込めば苦さが飛びます。木のみについてですが⋯⋯残念ながら良く加工しなくては食べたものではないかもしれませんので放置で』
「なるほど」
確かに木の実を見てみると、どんぐりみたいな硬そうな物しかない。加工して食べるにも、かなりの手間が掛かりそうだ。
⋯⋯いやどんぐりって加工したら食えるものなのか? 『どんぐりはクッキーなどに出来ますよ』出来るんだ。『砂糖が無いと苦いですけど』そうなんだ。『翔ちゃんはもっとリアクションを大げさにするべきです!』はいはいワロスワロス。
「となると⋯⋯横にあるピザ窯ぽい物は使わないのか?」
『あれはキノコを試しに蒸し焼きしてみるために作ったのです』
「へぇ。味の方はどうだった?」
『苦みが増しました。食べてみます?』
横から焼かれたキノコがこんにちは。俺は全力で遠慮する。生の状態であれほど不味かったものを更に濃縮させたものなんて食べたくなかった。
昭子は調理を開始する。とは言っても煮込むだけなので特に特筆する物は無い。俺が手伝う事も一切なかった。
しいて言うなら、昭子は水を体内に保存していたという事に、びっくりしたくらいだ。
腹の中に保存できたんだね水。でも口から吐くなよ。すげぇ気持ち悪い絵図だったぞ。美人でも許されない映像だったぞ。
後、キノコを茹でた水は捨てられた。土交じりだったからだ。茹でるのに使った土器も壊れており、簡易的な土器では茹でるのは難しかったらしい。⋯⋯いや簡易的な土器ってなんだよ。
茹でキノコが皿に並べられる。(皿は木の皮を剥いだものを利用している)そのキノコの上に、木の実を砕いた物が振りかけられる。
茹でキノコは苦さが消えた代わりに味がかなり薄味らしい。ゆえに味付けを込めて木の実が振りかけられた。
『はい出来ましたー。茹でキノコの木の実味でーす』
パチパチパチっと昭子が拍手しながら料理の完成を祝う。俺もなんとなく一緒に拍手をする。パチパチパチと拍手が響き渡った。
昭子がキノコを摘まむ。
『はい、あーん』
食わせてくるのかよ。けど、そういえばキノコを口へ運ぶ食器が無い。そしてキノコはゆであがりなので濡れていて掴みたくない。
なので食わせられるのを応じた。
口に含んだ瞬間、無が広がった。何もない味。なんともない感触。味の無いスポンジを含んでるように思える味。アクセントの木の実が辛うじて良い感触を与えているが全体的に無味な感想しか浮かばない。
けど生で食うよりはマシだった。俺は最後までキノコを食い終わった。
「ご馳走様」
そう俺が昭子に答えると、『お粗末様でした』と返してくれた。
こんな食事でも腹が満足すると眠気がどうにもやってくる。
俺はあくびをして寝転び、昼寝をしようとするが、此処は山肌が直に出ている場所なのでクソ背中が痛かった死。
そんな事を思うと、昭子が膝を貸し出した。膝枕だ。
昭子の膝は気持ちよかった。計算されて発熱されている人工人肌の感覚に魅了されてしまう。
昭子が子守唄を歌う。今回はカナリアの歌らしく、その心地よい計算された高音が耳に侵入し、眠気を更に誘う。ママぁ⋯⋯っと思わず甘えたくなるくらいの心地よさだ。
しかし、今回は甘えてなるものか。
こうやって甘えるとまた昭子の言葉使いがおかしくなる。今でこそ徐々に言葉が硬くなってきたが、甘えたらまた言葉が柔らかくなる。
甘えてなるものかと決意を抱くが、耳掃除の快感によって瞬間に溶けた。
こりこりっと耳の穴に快感が走る。気持ち良すぎて気持ちいい。それしか思い浮かばない! ただ、ただ、快感に身を任せるしかない。
「昭子ママぁ⋯⋯」
『はぁい。ママでちゅよー』
耳掃除道具どっから出してきたんだよっと疑問に思う間もなく俺は昭子ママに甘え始めた。
ねぇねぇ昭子ママ。俺は無事に元の世界に帰れるかなぁ。
『可能性はゼロではないとしか言えませんですねー』
そうだよねぇママ。
『なのでまずは生活基盤の確立からしましょうね。それを確実する手段としては、もうある生活集落に乗っかる事。幸い建物は見つかりましたし行ってみましょう』
そうだねママ。一緒に建物⋯⋯お城に行こうねぇ。
⋯⋯スヤァ。
◇◆◇◆◇
昼寝後、必要な最低限の食糧などを持って、俺たちは山を下る事にした。
『では翔ちゃん。行きまちゅよ』
「はいはい」
俺は昭子の赤ちゃん言葉を全力で無視して、城方面へ足を進めた。
⋯⋯気にしてはならない。そう気にしてはならないのだ。
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