石投げマスター

 昭子が俺に、なぜ此処で待っててくれなかったのかを説いたので、俺は言い訳をした。

 いや、本当に暇だったんだよ。

 だって、何もないんだよ。この異世界には。

 スマホねぇからツイッターで暇を潰すこともできんし、あったとしてもインターネットに繋がらない。まぁ繋がるのならインターネット認証でもするのだが。

 じゃあ、どうやって暇を潰すんだっていう話ですよ。

 世の中には様々な暇つぶしが存在するけど、やっぱそれってスマホ触るよりも低品質な暇潰しな場合が多い。一人ならなおさらだ。

 そんな中、俺が閃いた暇つぶしは石を転がして遊ぶことであったんだよ。

 俺は足元にあった石ころを下り坂に投げる。コロコロ転がる石は加速して、岩にぶつかって弾ける。とても楽しい気がする。するだけだ。

 楽しい気がするだけ、だけど俺には必要な暇つぶしなんだよ。石が転がって弾けるのは必要な暇つぶしなんだよ。

 でもさ、しばらくすると飽きが来るんだよ。石がはじけるのは楽しい。今度はどんな感じで石がはじけるんだろうな? ありゃ、石が変なところで曲がって岩にぶつからなかった。今度は投げ方を少し工夫しなきゃって、様々な工夫で暇つぶしができても、いつかは石について完全に理解してしまう。

 ほら、さっきの石。俺は投げる先を一切見ていなくても岩に当てていただろう。この辺の石投げはマスターしてる●●●●●●んだよ。

 そんな俺を満足させるには、スケールを上げるしかなかった。

 スケール、今回の石投げについては石のサイズと等しいだろう。

 例えば、あの岩とか転がったらどんな弾け方をするのか⋯⋯想像しただけで絶頂しそうな気分に『翔ちゃん、そんな下品な言葉使っちゃだめよ』そうですか。

 まぁとにかく、俺は岩を転がしたかったんだ。でも俺一人の力じゃ無理だった。

 だから、てこの原理を使えば良いかと閃いたんだ。だけど棒がなかったんだよ。ゆえに、森の方へ下って行った。

 だから森に言った理由を一言に纏めると、暇だったから下りたんだ。

 つまり――すいません、ごめんなさい。俺が軽率な行動してすいません。

 俺は謝った。言い訳している間に俺が悪い事を自覚したのだ。

 昭子がため息を付きながら、俺を見て答える。

『よく謝れました。こんな危険な世界で、私が翔ちゃんをあの場所にお留守番させることが出来たと思います? 辺りの安全が確認できたからなんですよ。移動されたら台無しです。

 まぁあんな空飛ぶ熊が居ることが分かったので、これからは、お留守番させるのは出来ませんけど』

 なるほど、そうか。介護レベル5なのに急に俺が独りぼっちにさせることが出来たのは、辺りの安全を確認できたからか。思考停止してたから全然考えたことも疑問にもしたことがなかったぜ。

『ああ、でも翔ちゃん。格好つけて「マスターしてる●●●●●●んだよ」って言ってるけど、そうしてもカッコいい大人にはなれませんからね。真にカッコイイ大人って言うのは、3K――高身長、高収入、高学歴ってことですから!』

「えらい現実的なカッコよさだな」

 そんな事をツッコんでいると、昭子は立ち上がり、近場の岩を押した。

 ゆっくり岩は回転し始め、坂道の力で転がり始める。コロコロ転がるって言うレベルではなく、ゴロゴロという⋯⋯いやそれすらオトマトペとして相応しくない勢いで岩は転がる。

 そして岩は、途中で岩にぶつかると――岩が二つに割れて飛んだ。

 その割れた一つは、断面から地面に着弾して止まる。

 もう一つはそのまま転がり始め、見えなくなった。

「⋯⋯ビューティフォー」

 俺は感動した。想像の何倍も美しい光景に心躍った。

 いやだって、二つに割れたんだぞ! しかも割れた奴はまだ転がっているんだぞ! いままでやっていた石投げコロコロがお遊戯に見える位、衝撃的な光景だ!

 興奮のあまり体がブルブルと震えてしまう。

 そんな俺を昭子は、良く分からないけど息子が喜んでるなら嬉しいなって感じの表情で俺を見ていた。⋯⋯いやよくそんな表情だと分かったな俺。

『これでいいですか翔ちゃん。さぁご飯の支度をしましょうね』

「俺もするのかよ」

『当たり前です! いいですか。将来のためにも家事くらい出来るようにしないと』

 こいつ高級介護アンドロイドのくせに、俺を楽させてくれねぇな。

 俺は昭子と、食器や食材が並んだ場所へ移動した。

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