第4 此の瞳に収めて
薄暗いアパートの一室で私は今年も一人、誕生日を迎えた。
ふと壁に掛かっているカレンダーを見やる。
明日は自分にとって最も大事な日だ。
アイスランドに専門家と他数名で地質や渓谷等の調査に向かう。
専門家以外は審査を経て参加権を入手する。無論、私もその一人だ。
私は、〞未だ帰らぬ友人を探す〟ために今回、参加を決意した。
彼は、四年前に同じ企画に参加し、渓谷の調査の際、行方不明になり四年経った今もそれらしい死体すら見つかっていない。
行方不明者が出たということで暫く此の企画は中止となっていたが、数か月前、再び再開することを発表した。
彼は私の唯一の友人であった。肉親とは仲が悪く、高校卒業と同時に家を飛び出し其の儘縁を切った。もとより被虐体質だった私は大学でも周りに馴染めず、寂しい学生生活を送っていた私に偶然同じアパートに越してきた少し年上の彼が馴れ馴れしく私に接してきた。
最初は鬱陶しかったが、次第に隣にいるのが当たり前になり、大学を卒業し、就職した後は後輩として彼の下につき、よく一緒に呑みに出掛けたりした。
「なあ、幻の村を見てみたくないか?」
「なんすか急に」
「ほら、最近話題になってるやつあるだろ?」
「あー、なんか専門家と一緒にアイスランドに行くとかなんとか…」
「そうそう、でな?昔見た本に書いてあったんだよアイスランドの渓谷付近に〞人も何もいない寂れた村〟があるらしいんだ」
「それで?」
「その村の時計塔の上から渓谷を見下ろすと辺り一面がこの世のものとは思えない程の美しい雪景色になるそうだ…ただ、其の景色を見た者は神隠しにあうらしい」
「そんなの所詮、只の都市伝説ですよ」
「都市伝説でも何でも、その雪景色見てみたいんだよ俺の此の目で!」
「…だからあの企画に参加したい、と」
馬鹿みたいな理由だが、この人は本気だ。頑固で一度思い立ったらやるまで止まらない。
「見てろよ、絶対見つけて帰ってきてやる。此の一眼レフにも抑えて。お前が悔しさで顔を歪ませるのを見るのが楽しみだ」
そんな彼との会話がフラッシュバックする。あのとき、息巻く彼を止めていれば、何か少しは変わっていただろうか。
叶いもしない戯事を掻き消すように灰皿に煙草を擦り付けて、残っているビールを一気に飲み干した。
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