09


こうして僕は地上に蘇った...というわけではなくて、正に幽霊としてこの世界に居座る事ができるようになった。


神さまに指パッチンを食らった後、瞬間的に意識が揺らいだ。眠くなった時に視界がぼやけた時の感覚に近い。


その感覚から覚めたら、天国から地上にいた。数年ぶりの地上は、色々と様変わりしてた。僕が生きていた頃には持っている人の少なかったスマートフォンが、今ではほぼ多くの人たち持つようになっていた。


天国には才能を持った人間が有り余った時間を使ってさまざまな物を発明しているから、地上よりも出来る事が多かったりする。


現に、霊体にまとわりついた情報の霧、サイバネティクスミストに一言「現在位置を教えて」と脳内伝えればその情報を目の前に宙の空いたディスプレイとして表示してくれる。


今いる場所は僕が死んだ大学から少し離れたところにある私立の大学病院の中庭だった。僕は死後ここまで運び込まれ死んだということなんだろう。


すれ違う人たちは僕のことが認識できないのか、平気で身体をすり抜けていく。ただ、中庭を通りかかった猫には露骨に避けられ、散歩しに歩いていたのだろうか、小学生の子供が一人僕のことじっと見つめていた。親の袖を強く握りしめ「嫌な感じがする」と小声で伝えていたことまで聞こえる。


自分の霊体を纏っているサイバネティクスミストは人間のあらゆる五感を補助する機能が備わっているため、こうした遠くの会話を...図らずも聞けてしまう。


もちろん僕は知ることができたとしても、この世界に干渉する権利など、持ち合わせていない。


人間が天国にいる時の記憶を来世まで持ち出せないのは、こういった進みすぎた文明の利器を簡単に作られては困るという背景があることを死後始めて知った。


というわけで僕はなんの迷いもなく、見知った土地の公共交通機関を使い、自分の家に向かった。死んでから始めてみる自分の家族がどうなっているのか、一番最初に知りたいとおもうのは当然だった。


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さんぶんのいち 百均 @kurobako777

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