05 妹の空


本を読むことはそこまで好きじゃなかった。けれど、家の中に一番多く置いてあったのは本だった。難しいタイトルの本や外国の人たちが出てくる話は肌に馴染まなくて読めなかった。


もっぱら、児童文学の中でも本屋の片隅で平積みされているような薄い絵本や、挿絵の多い本を何となく眺めて読んで読んでいた。


姉は本を読む事が退屈みたいで、近所の友達を引き連れては公園で遊ぶような子だった。顔が似ているけど他は似ていない姉妹であると言われる度に、何となく、傷つくのは私の方だとずっと思い込んでいた。


遺伝子の形は同じなのにどうしてこうも違うんだろうと何回か不思議に思い、図書館にこもって調べようとしたこともあったけど、難しい本をいくら広げても何も分からなかった。わかろうとしなかったのかもしれない。


そんな私の前にいつのまにかいて、隣でずっと見ていたのが阿久津君だった。幼稚園から高校まで同じ学校で、殆ど同じクラスだった。


隣の家に阿久津君は住んでいたので、帰り道も、遊ぶ時も一緒で、家族付き合いもあったので家族旅行でも一緒になることがあった。


私は姉と違ってそこまで男の子と話すタイプの人間ではなかったので、自然と何かたわいもない話ができるのは阿久津君くらいだった。


好きな本や映画や趣味が彼と会うことも、一緒にいて過ごしやすかった。好きとか嫌いとか、分かりやすい感情ではなかった。それは。


私の好きな本を阿久津君に貸して、阿久津君は私の知らない本を貸してくれて、私はそのお礼に映画のチケットを一枚渡して、阿久津君はもう一枚チケットを何処からかもらってきて、一緒に映画を見て感想を言い合った。


言い合った後で、今度はじゃあ映画を見てみようかと思って、レンタルビデオ店で借りたDVDを持ってきたら阿久津君の家で見ることになって、そんなやりとりが何年も続いたら、周りからしたら付き合ってるように見られてしまったのだ。それだけだった。


それ以外何もなかったし、何かある前に彼は、死んでしまったのだ。






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