第33話
水色のボールを手にするとレーンの前に立ち深く深呼吸した。
ボーリングは小学校の時に真奈美の家族と共に来たのが最後だった。あれから数年が経っている。うまい方ではないが、やはり感覚を忘れているとどれぐらいの勢いで投げていいかわからない。
「綾人、ストライクしちゃダメたよ」
後ろで声を上げる真奈美を無視してボールを構える。
視線は赤いピン。手はゆっくりとでも離すときは早く。
頭の中で動作をイメージしながらそれを実行する。
「ふん」
ボールを投げた時に変な声が出てしまったが関係ない。真奈美には聴こえていないようだから。
レーンを転がるボールは真っ直ぐに転がっていく。回転の掛け方もわからない素人のボールはそのまま赤いピンの横を通り抜けて行った。
「よし!」
振り向くと真奈美が嬉しそうにガッツポーズをしていた。
残ったピンは左に赤を含め3本、右端に一本ととても悪い状況。もしプロならこの状況をどうにかしてみせるのだろうが、こんな技は持ち合わせていない。
なのでなるべく点を取るために3本残ったほうにボールを投げた。二回目の投球は3本とも倒れてくれた。
ベンチに戻ると真奈美が嬉しそうに上の掲示板を見ている。
「もう点差ひらいたね」
「まだまだこれからだろう」
「それはどうかな〜。もしかしたらこのままどんどん点差が広がるかもよ」
「それこそどうかな。俺が連続でストライク出すかもしれないぞ」
「今のままじゃないない」
真奈美は手と首を左右に振る。
「じゃあ俺がもし買ったら昼奢って貰おうか」
「それいいね、私が勝ったら綾人が奢ってよ」
「ああいいよ」
真奈美の態度にイラッときてつい賭けをしてしまった。今のままの現状で俺が勝てる可能性はほとんど無い。どうするか・・・。
次のコースを考えているとスクリーンが音と共に変わった。画面にはデカデカとストライクと表示されていた。
画面から目を離すとこちらを向いて笑顔でVサインをしている真奈美がいた。
「俺、この勝負勝てるのか?」
真奈美には届かない声で呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます