第32話
夏休み初日、まだ寝ている人もいるであろう午前10時、俺は家を出て隣の真奈美の家に背を向けて立っている。
終業式の帰り、いつ行こうかという話になった。俺は予定がないのでいつでもと答えたら真奈美は明日と言って来た。もちろんOKした。
それで二人で近くのボーリングに行くことになり、朝10時と言って家に帰った真奈美を外で待っている。
スマホの数字が徐々に大きくなって行く。別に焦るような予定でもないのだが、なにせ日陰がないので日が当たって暑い。
少しでも日陰がある家の玄関に戻ろうとした時、ようやく真奈美が出て来た。
「ごめん、お待たせ」
「よし、行くか」
真奈美が横に来るとすぐに歩き出した。真奈美に対して「遅い」とか「何してた?」とか言いたくはなかったし、「大丈夫、今出たところだから」と言うのは少し無理があった。額にはじんわりと汗をかいているから。
それからボーリング場までは家庭の話で盛り上がった。真奈美の両親を俺はよく知っているし、真奈美も俺の両親をよく知っている。
真奈美が昨日お父さんにプリント食べられたと言うとその現場が容易に想像出来る。
ボーリング場まではなるべく日陰を歩いたのだが、ついた頃にはお互い汗をかいていた。
「やっと着いた〜」
「すぐに入ろうぜ、クーラーの効いた部屋に入りたい」
店の自動ドアを潜ると熱気を持った空気はなくなり、ひんやりとした冷たい風が汗をかいた体を冷やす。
カウンターに向かうと真奈美は5ゲームしようと言い出したが、さすがに辛いと思うので2ゲームにした。少し不服そうな真奈美を連れて靴とボールを選び、俺たちのレーンに向かった。
「さて、やりますか」
ゲームの順番は真奈美、俺の順番になっていた。真奈美は6号のボールを持つと胸の前でボールを構えた。そのボールを後ろに回し、勢い良く手放した。
ボールは逆回転しながらレーンを滑って行く。
「ストライク!」
まだ一ピンも倒れていないが真奈美は俺に聞こえる程度の声を上げた。
ボールは勢いを落とさずに赤いピンに当たった。白いピンのドミノのように倒れて行く。真奈美は確信を得たように俺の方に振り返ってドヤ顔を見せた。
「残念だったな」
ドヤっと見ている真奈美にそう告げると真奈美はレーンの方をみた。レーンの向こうでは一番端のピンが一ピンだけ残っていた。
「えー、倒れてよ」
真奈美はそう言いながら戻って来るボールを取るために一時的に戻って来た。
「惜しかったね」
そう伝えると真奈美は悔しそうな顔でこっちを見て来る。
「いいもん、スペア取るから」
真奈美は帰ってきたボールを取るとレーンに向かった。
同じ構えで転がしたボールはピンに届くことなくガーターに吸い込まれていった。
「あ〜あ」
溜息混じりに残念そうな声を真奈美があげた。
二回投げ終えると自動的にピンが全て倒され、再び10本のピンが定位置に立てられる。
「よし、俺の番だな」
そう口にしながら真奈美と入れ替わるように席を立った。
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