第25話

「え!」


 クラスメイトたちの盛り上がりとは対照的に私は冷め切ってしまった。さっきまでの長縄の盛り上がりはもうない。


 気になる人


 それだけが頭を何回も繰り返している。もしここで綾人があのカードを引いてしまったら。もしそのカードを引いて私のところに来てくれなかったら。綾人が後輩のあの子を選んだら。


 私にとって最悪な展開がいくつも思いついてしまう。


 綾人がカードを引いて私のところに来てくれなかったら、告白しても振られる。その時は私は自分の気持ちを伝えず、今まで通り綾人の横を歩けるのだろう。綾人が後輩の話をしているのを黙って笑顔でいるのだろう。そのたびに自分の心がズキズキをいたんだとしても・・・。


 私はみんなのように歓声を上げることはなかった。ただ両手を握り、綾人がカードを引かないことだけを祈った。




「気になる人・・・」


 細く小さな声で言うと脇腹を突かれた。横を見ると眼鏡越しに目を細め、口をニヤけている千佳がいた。


「先輩引くといいね」


 彼女は意地悪にそう言った。


「千佳の意地悪」


 千佳はあははと笑いながら私の肩を叩いた。まるで恋愛話を聞いた酔っぱらいのようだ。


「そう言うなって。もし先輩が引いて菜穂のところに来たら脈有りってわかるじゃん?そのままの流れでマイクに向かって好きですって言っちまえばいいじゃん」


「で、できるかー!」


 つい大きな声が出てしまい周囲の視線が集まる。それが恥ずかしくて下を向いた。


「でもさ」


 千佳はまだ話を続ける。


「もし先輩が引いたとして、違うところに行ったらショックだね」


 千佳の一言でスタートラインに並ぶ先輩に目を向ける。先輩はどこかソワソワした様子でお題を探している生徒たちを見ている。


「うん」


 私は応援席を見渡した。みんなが気になる人を引く人を見たくて席を立って見ている。そんな中、ただ一人だけ席に座り天に祈るように手を握っている人が目に入った。


 私はその人を見たことがあった。一度や二度じゃない。よく帰りに一緒にいる先輩。名前も知らない先輩。


 彼女だろうかと疑ったことはあるけど、そうではないという確信があった。


 もし彼女なら先輩はあの人を置いて昼に屋上には来てくれないと思う。先輩はそういうことをする人ではないと私は知っている。だから違う。


 私は再びグランドで待つ先輩に目を向ける。先輩の出番まで後少しだった。

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