第26話

「次、先輩の番だね」


「うん」


 千佳がグランドの方を見ながら私に伝えてくる。借り物競争は順調に進んでいった。一年生が終わり二年生のラストの走者がスタートラインに立った。これまで放送であった「好きな人」のカードはいまだに出てきていない。


「もしかして先輩が引いてくるかもしれんからスタンバイしないと」


「もう!からかわないでよ」


「ごめんって。でも、もしかしたらあるかもしれないじゃん」


「それは・・・」


 そんな会話をしているとスタートを知らせる雷管が煙と音を出した。


 二年生最後の走者が一斉に走り出した。先輩と一諸に走る人は一人を除いてみんなぽっちゃりで走りもどこかぎこちない。これなら先輩の圧勝だろうなんて思っていたのだが、ぽっちゃりでない人が思いのほか走るのが速く、先輩はその人の後ろを必死に着いていっていた。


「先輩ファイトー!」


 私はそう叫ばずにはいられなかった。横で千佳が応援する私をニヤニヤした顔で見ていているのは気にならないほど。先輩たちはスタートから五十メートル離れたカードの置かれた場所に着くころには後ろの三匹の子豚はその半分しか進んでなかった。・・・すみません子豚なんて表現して。


 先輩たちは机に置かれたカードを一枚ずつ手にした。一緒に競っていた人はすぐに保護者席の方に走っていった。しかし先輩はカードを見つめて動かなくなった。


「おっと!どうした?白組の走者の足が止まったぞ!」


 実況者の子が「もしやこれは!?」と場の空気を盛り上げる。ほかの生徒のテンションもよりいっそ上がっていく。


 先輩は頭をかきながら周りを見渡す。後ろからは遅れてきた人たちがすぐそばまで迫ってきていた。


 先輩は迫ってきていた人たちを見てよりいっそ頭をかいた。しかしその行動はピタリと止み、代わりに私たちのいるテントの方をジーと見てくる。その後先輩はさっきと同じぐらいの速いスピードでこちらに向かって来た。


「・・・菜穂、先輩もしかして!?」


 千佳が言いたいことはすぐにわかった。先輩は迷うことなく私たちの・・・いや一年の応援席に来ていた。


「菜穂!一緒に来てくれ」


 先輩は私たちの前に来ると私の名前を大きな声で呼んだ。ほかのクラスメイトが喚声を上げながら私の方に注目する。


「速く!」


 先輩は私をせかす。私は前の子の椅子を避けながら先輩のもとに向かう途中、千佳が「行ってら」と言ったのを聞き逃さなかった。


「あの、先輩・・・」


「話はあと」


 そう言うと先輩は私の手を握った。その光景に応援席のクラスメイトの興奮が止まらない。私は先輩に引っ張られるようにグランドに出て行った。




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