第3話

 四時間目の終わりを告げるチャイムが校内に鳴り響く。生徒が一斉に売店に向かうなか、俺は一人屋上に向かった。その間誰にも合うことはなかった。


 屋上の扉の前に来るとドアを開ける。ギィーっと金属音を鳴らしながら扉が開いていく。空いた隙間から風が入って来る。


「先輩遅いです!」


 扉を全開にするとドアの横で菜穂が足を抱えて座ってこっちを見ている。その左に弁当箱が二つ。青い布と赤い布に覆われている。


「菜穂が早いんだよ」


 ガチャンと扉が勝手に閉まり俺は菜穂の左側に腰を下ろす。


「疲れた」


「先輩、三時間目体育でしたね。グランドを辛そうに走っていましたよ」


「見てないで授業に集中しろよ」


「勉強も頑張ってますよ」


 菜穂は幼い子供のような笑顔で笑いながら青い布の弁当箱を渡して来た。それを受け取ると菜穂は自分用のだろう赤い布の弁当箱を手にした。


 弁当を開けるといろんな種類のおかずが出てきた。ご飯には梅干しが乗っている。


「うまそうだな」


 箸を手におかずから口に運ぶ。


「いただきます」


 菜穂は手を合わせてから自分で作った弁当を食べ始めた。弁当の中身は定番の玉子巻きやウィンナーなどのよく運動会などで見る馴染みのあるおかずばかり。


「美味しいですか?」


 黙々と弁当を食べていた俺を上目遣いで菜穂が見ていた。菜穂の弁当はほとんど減っていない。俺の感想を待っていたのだろう。


「美味しいよ、特に玉子巻きが」


「先輩ってもしかして甘党ですか?」


「どうしてわかった!」


 なんで俺が甘党だとわかってのかそこに驚いた。俺はたしかに甘党だ。チョコや飴などは大抵鞄に入っている。


「実はこの玉子巻き、少し甘めに作っているんです。最初はどんな味がいいのかわからなくて悩んだのですが、私先輩の連絡先とか聞いていないから聞けなくて・・・」


 菜穂は持っていた弁当箱を下に置くとポケットからスマホを取り出した。


「連絡先教えてください!」


 目をキラキラさせながら菜穂が距離を詰めて来る。ほとんど間がない。風が吹くたびに菜穂の髪がなびき、そこからいい匂いがする。


「それは別にいいけど・・・」


 俺のスマホを取り出す。スマホのホーム画面にはラインの着信が来ていた。がそれは後にする。


 スマホを取り出すと菜穂と連絡先を交換した。交換後菜穂はずっと画面を見てニヤニヤしていたが何も言わないで置く。



「そういえば・・・」


 俺は不意に思い出したことを口にした。


「菜穂はなんであの時俺に声をかけたんだ?」


 あの時とは進級してから少し過ぎた日のことだ。あの時は職員室に用があってその帰りだった。後ろから声をかけられた時は驚いたっけ。


「えっ!えーと・・・そう、恩返しがしたかったからです」


 なぜ最初悩んだのかよくわからないが・・・。


「俺はそんな大したことはしてないぞ」


「いえ、もしあの時先輩が声をかけてくれなかったら私は受験に遅れていましたし、何より動けなかったかもしれません」


 菜穂は下を向いている。思い出としてはあまり良くないものだもんな。あまり思い出さないように話を終われせよう。


「そっか」


「あの先ぱ・・・」


 菜穂が何かを言おうとしていると昼を終わりを告げるチャイムが鳴った。


「菜穂、何か言いかけた?」


「いえ、なんでもないです。急ぎましょう、次の授業に遅れます」


 菜穂は弁当を持って屋上を出て行く。


「先輩も早く」


「わかっている」


 俺は菜穂が何を言おうとしたのか気にはなったが聞く気にはならなかった。

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