第2話

 教室に近付くにつれ、教室からは賑にぎやかな声が聞こえてくる。俺のクラスは三組で、ちょうど教室四つに挟まれている。


 教室のドアを開け自分の席に向かう。俺の席は一番後ろの窓側。夏は暑く、冬は暖かいこの場所。


 その席に先約がいた。漆黒しっこくのように黒い髪を一つにまとめ、水色の水玉模様のデザインのシュシュをつけている。机にぐったりと伏せた少女の肩を軽く揺さぶる。


「おーい、真奈美まなみ起きろー」


「ううんん」


 寝ぼけているのかと思われる返事が返って来た。彼女はまだ伏せたまま、いつものことだ。だから対処法も知っている。


 真奈美の頭の上に手を乗せて左右に頭を動かす。


「頭やめて〜、髪が〜」


 真奈美は体を起こし自分の髪を整え始めた。


「いつもやめてって言っているのに!」


「いつも退けと言っているのに」


 真奈美の言い方を真似しながら言い返す。真奈美は頬を膨らませた。そんな顔しても俺の気持ちは変わらないぞ。


 少しの間見つめあってから真奈美がため息をついた。


「わかったよ。退きます、退けばいいんでしょう」


 椅子を下げて席を立つ。横に移動すると俺はすかさず自分の席に座る。その時だった。


「隙あり!」


 威勢のいい声と共に真奈美が俺の膝に座って来た。柔らかな感触が膝に伝わる。何気ない顔で俺の顔を見て来る。ほかの生徒からは暖かい眼差しを感じる一方で冷たいものも時々来る。


「これなら問題ないでしょう?」


「はぁ・・・大ありだと思うが」


「そう?」


 本人は何も感じていない、もしくは感じているが無視しているのどちらかだ。天然はまれにこんなことを平気でするから怖い。


 鼻歌を歌いながら俺の膝の上に乗っている。どうやら自分の席に移動する気はないらしい。


「何でこの席がいいんだ?」


 不意に聞いた質問に真奈美は正面を向いたまま答えた。


「だってここ、暖かいし、涼しいし、景色いいし」


 俺の席からは桜が満開になった校舎が見える。春である今は風がすごく心地良い。そのせいで授業中は睡魔に襲われることがある。真奈美が言いたいことはわかった。


「だからここがいいと」


「うん」


 外を見ながら頷いた真奈美の髪を涼しい春風が通りすぎて行った。



「さて、そろそろ戻るよ」


 真奈美はようやく俺の膝の上から降りてくれた。足は問題ないが、膝の残るほのかな温もりがまだ残っている。


「早くしないと先生が来るぞ」


 ホームルール開始三十秒前となった今、いつから膝の上に真奈美が乗っていたのかわからない。相当長く座っていたような気がする。

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