最終講義:小説を完成させてみよう

「みなさんこんばんは。ついに今日が最後の講義になります。終わってみるとあっという間でしたね。今日は特に私からの講義はありません、今書いている作品を是非完成させてみてください。そして最低一つの公募に応募してみましょう」


 パーマンは机に向かって、パソコンのキーボードを夢中で打っていた。作品は今まで書いていた「デビル・ハンド」。右手にメス、左手に注射針を持ち、救いつつ殺す、あれだ。


「あー、どうしよっかな」

「どうしたんですか? パーマンさん」

「メガネちゃんか。あのさ、どうも最後がしっくり来ないんだよね」

「あの、医者なのに殺しちゃうやつですよね」


 パーマンががくり、と頭を垂れた。


「いや、そんな単純じゃないんだけど、まあいいや。最後をさ、なんかカッコよく終わらせるのか、それともデビルな感じで終わらせるのか悩んでてさ」


 メガネちゃんはパーマンの後ろから、ディスプレイを覗き込んだ。


「そうなんですねー、じゃあこうしてみたらどうですか。主人公は悩んでいた、終わり」


 パーマンは固まった。そして目をぱちくりさせた。そしてやがて氷が解けるように首だけメガネちゃんに向けた。


「いいね、それ。謎を残す感じで? ありがと」


 相変わらずカンナは教室の後ろの席で、足をぶらぶらさせていた。しばらくしてから立ち上がると、不死川の横に立った。


「ひよこ豆ちゃん、終わりそ?」

「ええ、あともう少しなんですが」


 どれどれ、と覗き込むカンナ。


「最後のボスをやっつけるシーンです。最後の究極魔法の名前を何にするかで悩んでいます」

「へえ、何が候補なの?」

「ええと、マジック・ミラクル・ポポポポーン、にするかマジカル・ミラクル・パパパポーンにするか。それとも、キューティクル・ファイナル・フラッシュ・アタック、いやアクション……」


 カンナはその横で、ふとキーボードの打ち込みに夢中になっている人物に目がついた。


「あれ? ゆきりん。どうしたの?」


 どうしたの、とは不思議に思ったからである。

 今まで全くといっていいほど小説を書いていなかった佑紀乃のその姿は異様に映った。


「どうしたのって、書いてるんだけど」

「うそ!? あれだけ書けないって言ってたのに?」


 それからディスプレイを覗き込んだ。そしてあらすじの部分を読む。


「どんな内容? ……ってこれまさか」


 その声を聞いてメガネちゃんも覗き込む。


「どうしたんですか? ついにゆきりんさんも書き始めたんですね……ってこれ、もしかして?」


 パーマンも寄ってきた。


「なになに? どれどれ? お兄さんに見せてごらんなさい。……うそ、これってひょっとして?」


 三人はじっとディスプレイを眺めた。それでもキーボードを無言で打ち続ける佑紀乃。気づけば不死川も集まっていた。


 内容はこうだった。

 小説に全く興味が無かったアラサーの主人公が間違って入ってしまった小説講座。そこで出会った少し変わった人達との出会い。天然の大学生や、ドレッドヘアの女、ボンボンの浪人生、スキンヘッドの兄貴などが出てくる、そんな内容だった。


「私やっぱり小説って向いてなくて、もう書けないって思ったんだ。でもだったらここでの事を書いたら面白いかなって。そうしたら思ったよりどんどん話が進んでさ」


 メガネちゃんがぐっと覗き込む。


「これってわたし、かなり美人ってことになってないですか? 嬉しいですー。でもここまで変じゃないかな」

「あー、あたしはかなりぶっとんでんじゃん、これ。こんなこと言ってたっけ?」

「まあこれフィクションだから。ちょっとした脚色には目をつむってね」


 パーマンもじっと覗き込んでいた。


「俺、結構イケメンってことになってるね。ここだけは合ってる」

「ごめん、ちょっと話盛り上げるためにそこはかなり脚色した」

「いやいや、そこは間違っていない。いいんだこれで」


 カンナがパーマンの額をデコピンした。


って、お前の指力ゆびりょく日に日に増してないか?」

「だから違うって言ってんだろ? ゆきりん、完成したら読ませてねー」

「そうだね、まずは完成させないとね」


 ちょうど講義が終わりの時間を迎えた。


「それではみなさん、これで『あなたもステキな作品を書ける! 0から始める小説講座』は終わりになります。来年もお会いできることをたのしみにしてます。このあと『ぼんちゃん』で予約しています。これる方は是非ご参加ください」


 佑紀乃はその「ぼんちゃん」の響きに懐かしみを感じていた。そういえば、そこから全ては始まった。あの時ここに来なければ全ては無かった、全ての始まりはあそこ、そして終わりもきっとあそこなんだ、と。

 ぼんちゃんへの参加者はあっという間に集まった。

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