カンナの入手した個人情報

 カンナの見せたメッセージの内容は大体このようなものだった。


『あぁ、知ってるよ、この人。ユウジでしょ? 知り合いはそこそこ多いみたいで悪い人じゃないんだけど、ギャンブル好きで、金遣いも荒いって有名だったよー。女癖が悪いって話は聞いてないかな、前は彼女いたみたいだけど。なんか彼女の運転で事故って、片耳が聞こえなくなったとか。それから彼女が面倒見てるって聞いたけど? 今はどうなってるのか知らない、もう別れたんじゃないかな。あいつどうしようもないクズだし、捨てられたんじゃない? 元気にナンパしてるってことは、調子いいんだね、でもあいつはやめといた方がいいよー、チビなのに顔でかくてロン毛だから』


 パーマンが大きく椅子にもたれかかった。そして天を仰ぐ。

 メガネちゃんも何と言っていいのかわからず、おどおどしていた。


「つまりこの彼女っていうのがゆきりんってわけだ」


 カンナは頷いた。


「あの娘、多分ゆすられてんだよ、弱み握られて。マジ最悪じゃない? あのウリボー野郎。あぁ、イライラしてきた、ちょっと今からぶん殴ってくるわ」


 そう言って立ち上がるカンナをパーマンが必死で押さえつける。

 しばらくカンナとパーマンの押し問答が続いた後、パーマンがカンナの目を見つめ、大きく頷いた。そして、パンパンと肩を叩いてから、座席を指差した。まあ座りたまえ、そんな目をしていた。

 カンナがため息とともに椅子にもたれかかる。


「俺、実はゆきりんと話した、さりげなくな」

「さりげなく……ですか?」

「あぁ。何か困ってる事があるなら話してくれないかって。でもゆきりんは話してくれなかった。これがどういう意味か分かるか?」


 カンナが鼻で笑った。


「そりゃあんたが頼りないからだろ?」

「まあ、それもあるかもしれない。でもな、多分ゆきりんは俺らに迷惑をかけたくないんだと思う」


 カンナは机の上の一点を見つめていた。それは肯定とも否定ともとれた。


「ここで変に動いたら、ゆきりんは俺らに迷惑をかけまいと、俺らの前からいなくなってしまうかもしれない、そんな気がする。だから軽々しく動いちゃだめだ」


 メガネちゃんは小さく頷いた。一方、カンナはしびれを切らしていた。


「だからって黙ってるわけにはいかないっしょ? あたしたちの大切なゆきりん傷つけられておいて」

「あぁ、そんなゆきりんのことだからこそ俺は助けたい。そのための会議なんだよ、これは」


 ピアットの客はまばらだった。窓から見える駅前の風景もそこまで慌ただしくなく、すっかり気温の低くなった駅前の風景が緩やかに動いていた。

 カンナがパーマンの表情を刺すように見つめた。そして口を開く。


「で、どうすんの? なんか良い方法あんの?」


 パーマンは待ってましたとばかりにニヤリと笑みを浮かべた。それから手招きで二人の顔をテーブルの中心に呼び寄せた。二人が不穏な表情を浮かべながら、誘われるままに顔を寄せる。


「そのためにはまず、確固たる証拠をつかむ必要がある。俺に良い案がある」


 そう前置きをしてから、辺りに聞こえないよう小さな声で話し始めた。

 それを必死に聞き入る二人。しばし反論することもなく、ただただじっと聞いていた。

 一通り説明を終えると、パーマンが再び椅子にもたれかかった。

 表情がいつになく満足げだ。


「という訳だ。良い案だろう」

「パーマンさん、でもそんな事が可能なんですか?」

「あぁ、可能だ」

「いや、ってゆうかそれマジやばくない? 見つかったら完全に……」


 しーっ! パーマンが人差し指を口の前に立てた。


「お前、声でけえんだよ。静かに喋れって」

「……完全に犯罪じゃんかよ、それ。だいじょぶなの?」


 パーマンは遠くを見つめた。


「大丈夫かどうか、それはそんなに大事なことじゃあない。大事なのはその覚悟が出来ているかどうか、それ次第じゃないかな。違うか?」


 メガネちゃんとカンナの二人は分かったような、分からないような、どちらともとれる表情を浮かべていた。 

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