結果発表
一週間後。
第11回目の講義の後、みな何も言わなくとも教壇の前に集まっていた。そしてじりじりとその距離を詰める。
観念するかのようにため息をつく張本先生。
「みなさん、聞きたいですか」
4人は強くうなずいた。
不死川も残り、少し離れた席につきその様子を見つめた。
張本先生が胸ポケットから一通の手紙を取り出した。そして、机の上に置く。
「ここに全てが書かれています。直接渡されました」
机の上にぽん、と置かれた便箋。
どうしようか考えあぐねていると、カンナが、さっと取り上げた。
それを他の者が覗き込む。内容はこうだった。
「お手紙ありがとうございました。嬉しく読ませていただきました。花のアレンジなどに興味を持っていただき大変嬉しく思います。(中略)是非お話させていただければと思います。ただ、小さい息子がおりますので一緒にということになります。また旦那にも一応お断りを入れさせてもらってからでもよろしいでしょうか? これからもフラワーショップ『フルール』をよろしくお願い致します」
おそらく全員がほぼ読み終わったタイミング、辺りは重たい空気で満たされた。
みんな、手紙から視線を上げられないでいた、張本先生の顔を見上げられない。一人を除いて。
「お、やったじゃん。話聞いてくれるって、どこにすんの?」
カンナのノリの良い問いかけに、パーマンが口を90度への字に曲げた。
「は? お前ほんとにバカじゃないの? これ読んだのかよ」
「だってほら、話させていただければ、って書いてあんじゃん」
「違うだろ、読めよ、その先を」
「へ? ああ、気にすんなって、こんなこと。奪っちゃえばいいんじゃね?」
パーマンが講義室に椅子にうなだれた。
「だからー、行間を読めよ。さりげなく断ってるんだろ、どうみてもこれ」
佑紀乃もメガネちゃんも今回ばかりは何も言えず、ただただうつむいていた。
張本先生が声を漏らした。
「……やっぱり、そうですよね。これ私もそう思っていました」
「でもですよ、先生」
佑紀乃はじっと張本先生を見つめた。
「なんか……こう。すごく優しさを感じる手紙ですよね。きっととっても素敵な気持ちの持ち主の方なんだと思いました。先生の気持ちを大事にしつつ、ここまでしっかりした手紙書いてくれるなんて。しかも初対面の人にですよ? 先生の気持ちはきっと伝わったと思います」
誰かがすっ、すっ、と鼻をすすった。見てみると、メガネちゃんだった。
「あの……あの、なんか良い話ですね、悲しいんですけど」
メガネちゃんは既に顔がぐちゃぐちゃになっていた。
メガネをずらしてはハンカチで顔をぬぐっていた。
パーマンが椅子にもたれるように天を仰ぐ。
「まあ、その……そりゃあ、あっちとしてもさ、そのままストーキングとかされても困るっていうか、うまくやんわりと断るみたいな感じ? これ以上つっこんだら向こうも強硬手段にでるかもしれんけど……
カンナが思いっきりパーマンのスネを足元で蹴飛ばした。
飛び上がったパーマンがスネを押さえながら何度かジャンプする。
「みなさん、ありがとうございました。でもこれですっきりしました、毎晩毎晩悩まなくて済みます。この思いを告げることは破滅への螺旋階段と思っていましたが、意外とそうでもないですね。これも全部みなさんのおかげです」
不死川がすっと立ち上がると、おもむろに張本先生のPCにUSBメモリーを差し込んだ。
「不死川さん?」
そのまま一つのファイルをデスクトップにコピーした。
「先生、ちょっと前に書いた話なんですけど、今読んでもらえませんか?」
「添削、っていうことですか?」
「いえ、その……そう思っていただいても構いません」
それだけ言うと、不死川はカバンを背負って出て行った。
取り残されたメンバーはみなキョトンとしていた。
張本先生がとりあえず、そのwordファイルをダブルクリックした。
タイトルは「太郎と次郎と雪の華」だった。
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