閑話休題 破滅への螺旋階段

破滅への螺旋階段

 4人はじっとパソコンのディスプレイを見つめていた。

 パーマンが唾をごくりと飲み込む。

 映し出された文字達を食い入るように見つめる4人。

 突如後ろから声が聞こえた。


「ついに見つかってしまいましたか」


 うわっ! とパーマンが飛び上がって、講義室の後ろまで逃げて行った。

 4人の背後から覆いかぶさるように張本先生が顔を出した。そしてその瞳にはいつもの笑顔は無く、丸メガネが不気味に光っていた。


「びっくりした! 先生、すみません、こんなのやめようって必死に止めたんですけど盛山さんが勝手に……」

「は? 何言ってんの、あんた達だって興味津々で見てたじゃんかよ!」


 メガネちゃんは黙って後ずさりし、少しだけ間を取った。

 張本先生はどこか元気なさげに微笑む。


「いいんです、ここに置いておいた私が悪いんですから。……で、どうでした? 内容は。感想をお聞かせ願えますか?」


 パーマンがその状況を確認してから、再び教壇へ戻ってきた。

 そして顔を見合わせる4人。不死川も腰を上げ、同様にディスプレイを覗き込んだ。そして内容に目を通す。

 

「先生、これ。マジなの?」


 張本先生の表情は真剣だった。


「ええ、100%真剣です」


 中身はいわゆる恋文だった。

 いつも見かけるフラワーショップの店員の女性。その白百合のような可憐で美しい姿を見るだけで、幸せな気分になり、いつのまにか恋に落ちていた、という告白。あなたのことを考えると毎晩眠れません、といった内容。


 感想を、と聞かれても正直困っていた沈黙を最初に破いたのはあの人だった。


「あのさ、あたしだったらこんなまどろっこしいことしなくてさ、もう直接飲みに誘うけど。なんなら手伝ってあげようか? オススメのバーあるんだけど」

「なるほど。でもいいんですか? 盛山さん」

「おぅ。全然オッケーだけど」


……いやいや、この子全然懲りてないわ。メガネちゃんの一件で大失敗したのつい最近でしょうが。


「あの——」


 メガネちゃんが口を開いた。


……ほらほら、経験者から言ってやりなよ、やめた方がいいって。


 細かく頷きながら、佑紀乃がメガネちゃんを見ると、


「——カンナさんのその積極性、羨ましいです。わたしにはできない」


……そこは止めるとこでしょうが。何で推すわけ?


「いや、その方法はリスクが高い」


 パーマンが鋭い視線を浮かべた。


……よかった、パーマンが流れを変えてくれて。


 そう思ったのは束の間だった。


「いい方法がある。女は大体かっこいい男に弱い。まずは高いスーツを着て、かっこいいスポーツカーを用意する。それで登場すれば完璧だ。先生、俺が手配してあげようか? レンタルで」


 カンナが鼻で笑った。


「ふん、中身の無い人間が考えそうなこったな」

「中身が無いのはお前も一緒だろうが!」

「あのね、あたしは……」

「あの……」


 メガネちゃんが手を挙げた。


「丹下さん、どうしました?」

「わたしだったら……」


 一同、メガネちゃんの口元に集中した。

 メガネちゃんなら、カンナやパーマンよりもきっと現実的なコメントをくれる、そう願っていた佑紀乃の手に思わず力が入る。


「なんかもう、ドキドキして、耐えらんなくって、そんで……」

「——それで、それでどうされますか」

「それで……もうこんなの全部消しちゃいます!」


 パリーン。

 そこの空間に張り巡らされていた透明なガラスが音を立てた。

 その場から少しの間、音が消えた。


……あぁ、せっかく一生懸命書いたのに、何で消すのよ。


 佑紀乃が張本先生を見た。さぞかし心外だろうと察したが、出て来たのは意外な言葉だった。


「——やっぱりそうですか」


……やっぱり? なんかさっきから接続語がおかしくない? ついに見つかったとか。この人の頭の中にほんの少しでも全消しが選択肢にあったわけ? 大体、パソコンもさ、なんでこんな大事なもの置いておくのよ、わざと?


 このままではとんでもない方向に進む危機感を覚え、佑紀乃がついに口を開いた。


「あの……ちょっといいですか?」

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