最後のチャンス

「お待たせしましたー、北海道産エビとずわい蟹のドリア、いくらときのこの和風パスタになります」


 料理が運ばれてきてもメガネちゃんは窓の外を見ていた。


「……どこなんでしょう、ひよこ豆さん。あっ! あれって」

「もうマジ勘弁してって、さっきから何回勘違いしてんのよ」


 佑紀乃がパスタを口に運ぼうとしながら、その視線の先に目をやった。

 手が止まった。


「え、あれって……」


 身を乗り出して駅前を見つめた。


「あれ、パーマンとひよこ兄さんじゃない?」

「何? うっそー、マジで?」


 カンナも身を乗り出した。

 佑紀乃の指差す方を見る。睨みつけるようにその映像を確認。その後目が大きく見開かれた、まん丸に。

 次の瞬間、カンナは走り出していた。机の上のコップにぶつかり、床にグラスが叩きつけられた。それに気づかず入り口へ走る。

 

「ちょっと待ってって、カンナちゃん」


 メガネちゃんも走り出していた。

 佑紀乃も追いかける。途中の店員に「必ず戻りますから」と声をかけて、3人はピアットを飛び出した。


 カンナは傘を差していない。

 メガネちゃんと佑紀乃は傘を差してはいても、大雨の中全力で走り、ほぼ意味をなしていない。


 駅前までは1分とかからない、最初に到着したのはカンナだった。

 

「ひよこ豆ちゃん!」


 カンナが不死川に抱きついた。


「もう、なんで勝手にいなくなっちゃうのよ……心配したじゃんか」


 佑紀乃とメガネちゃんも到着した。


「ひよこ豆さん、探しましたよ」


 佑紀乃が不死川の荷物に気づいた。


「え、その荷物……ひょっとしてどこか行っちゃうつもりだったんですか?」


 気づけば雨が小降りになっていた。

 不死川は駆けつけた3人を見てから、笑みを作った。

 そして首を横に振る。


「いいえ、どこにも行きませんよ。もう大丈夫です」


 それを聞いてカンナがもういちど強く不死川を抱きしめる。


「もぉ……どこにも行かないでよね! めっちゃ心配したわ」


 そしてやっと横でうずくまり、うっ、うっ、泣いているパーマンに気づいた。


「お前、ここで何やってんだよ。また兄さんに変なこと言って自分で泣いてんだろ、だらしねーな」


 パーマンは顔を上げなかった。

 そのまま、数回、うっ、うっ、と引きつった嗚咽を漏らした。


「……はい、生意気言ってすんませんでした」


 不死川がその肩を優しく叩いた。


「いえ、ありがとうございました。嬉しかったです」


 状況がよく分からないカンナは、腰に手を当て、ため息をついた。


 気づけば雨はあがっていた。


「まあ、でも良かった、見つかって。一時はどうなるかと思ったけど」

「ほんとです。心配しましたよ、警察署まで探しに行くところでした」


 不死川が首をかしげる。


「警察署?」


 佑紀乃がメガネちゃんの前に出た。


「いや、その……まあ、何と言うか……あ! 捜索願い? みたいな?」


 そんな会話を交わしているうちに、気づけば空には虹がかかっていた。

 こうして当てのないように思われた捜索の日々は終わりを告げたのだった。

 










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