第3章 不死川 玄太という男

カンナのわがまま

 第8回の講義の後も、いつものメンバーは自然といつものコースを辿っていた。ニコマートで必要な物を集め、そのままパーマン宅へ。

 カンナは別れ際、ひよこ豆ちゃん、また後でね〜と叫んでから、自動ドアを抜けた。


 重たい具材は極力パーマンが持ち、それ以外をみんなで分担して運ぶ。季節は徐々に空気を冷やし、長袖にも違和感を覚えなくなってきていた。

 パーマン宅まで後少し、というところで、カンナが持っていた具材を見る。


「ねー、メガネちゃん。今晩の料理何?」

「『アボカドとサーモンの甘辛ワサビ醤油和え』にしようかと思ってます。あとは少し寒くなってきたのでメインは豆乳鍋です」


 佑紀乃の目が輝いた。


「豆乳鍋!? 私大好きなんだよね、ヘルシーだし」

「俺あんま白菜得意じゃないんだよな……」

「パーマンさん、野菜もしっかり食べてくださいね。健康な体じゃないと、勉強も出来ませんよ?」

「はい、すんません」

「ねー、あのさー」


 カンナがステップを踏みながら、メガネちゃんに寄った。


「あたしこの前の……あれなんだっけ、ボッチンコーノだっけ?」

「ボッコンチーニですか?」

「そうそう、それ! あれ食べたくなっちゃった……」

「お前そんなのまた今度でいいだろ? もううちまで着いちまったじゃねーか。なんで早く言わねーんだよ。そもそもその言い間違えもさり気なく放送禁止用語入ってるからな」

「えー、でも食べたい食べたい! あの食感忘れられないんだよね……」

「今回は買ってないんです。パーマンさんの家にも余ってなかったと思うんで……」

「ニコマート戻って買いに行こ! ね? お願い!」

「……はい、分かりました。わたし行ってきます」


 すかさずパーマンが間に入った。


「もう、なんだよこいつは。女の子一人で行かせる訳にいかないだろ。俺も行く」

「メガネちゃんとあんた二人っきりになんかできる訳ないだろ? あたしも行くわ」


 佑紀乃が一瞬だけ、パーマン宅を見た


——あぁ、あとちょっとだったのに。 


「もうどうせだったら、みんなで行こっか。他にも何か必要なものあるかもしれないし」


 よっし、そうしよ!

 そう明るく叫んでから、カンナは一足先に、どこかの国の踊りのようなステップを踏みながら、ニコマートへの道を戻り始めた。


 ふとパーマン宅を一目みやってから、佑紀乃は一瞬だけ何かモヤっとするような、まるでノイズが混じるような違和感を覚えた。しかし、その時はまだ、それが何なのか全く分からないでいた。

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