狼の着たスーツ

 水曜の仕事帰り、佑紀乃はニコマートにいた。

 以前メガネちゃんに教えてもらった一品料理を作ってみようと思ったのだ。材料となるちょっと変わった食材が売っているのもニコマートの特徴だった。


——あったあった、ボッコンチーにと、バジル。それから……


 ふと見上げると、見覚えのある人影がドリンクコーナーへ向かっていた。


——あの人……。


 佑紀乃はその人物の横についた。


「こんばんは、あなた溝端君だよね?」


 溝端はドリンクコーナーに伸ばしかけた手を止めた。そして佑紀乃を見る。


「あなたは、この前の」


 どうも、と丁寧にお辞儀をする。


「メガネちゃん……じゃなかった、丹下さんから聞いたよ。彼女のこと、よろしくね」

「いえいえ、こちらこそ。青葉、イメチェンして可愛くなってましたね。もっと早くすれば良かったのに、って言ってやりましたよ」


 そう言って、爽やかに微笑んだ。


——早速下の名前で呼んじゃって……青春って感じだわ。


 その笑顔を保ったまま溝端は続けた。


「でも、変わってますよね、あの子」

「あぁ、色々ね。天然っていうか、おっちょこちょいだし、ワレモノよく落とすし。でも男子からしたら、そこが可愛いんじゃないの?」


 溝端は一瞬、へ? という顔をした。


「いや、その……聞いてないんですか? 本人から」

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