カンナプロデュース 告白大作戦

 ニコマートではカンナがカウンターの揚げ物一覧を楽しそうに眺めていた。メガネちゃんも食材コーナーを鼻歌まじりで物色していた。不死川は今はバイトとしてカウンターに立っていたが、22時までの予定。後からパーマン宅に合流する事になっている。


 ピコンピコン、自動ドアが開く音が鳴る。咄嗟にカンナが入り口を見た。


「あれ? あの兄ちゃんって……」


 カンナが店内に入って来た若者の後を追った。それから、メガネちゃんの元へ行く。


「ねー、メガネちゃん。あの子ってあんたが好きな子じゃない?」


 え? そういうと、メガネちゃんが雑誌売り場で立ち読みをする若者に目をやった。


「うそ、溝端くん!?」


 左手に持っていたドレッシングを、さっ、と佑紀乃が奪い取った


「——とりあえず、割れ物は置いておこーねー」


 そのまましばらく、唖然としていたメガネちゃんを見てカンナがにやける。


「……そっかぁ、じゃあここはあたしが……」


 そう言ってずんずんと溝端に歩み寄った。


「ねえ、兄ちゃん」

「はい?」


 溝端は立ち読みしていた雑誌から視線をカンナに移した。


「あのさ、このメガネちゃん……えーと何青葉だっけ?」

「え? あ、丹下さんのことですか。あ……」


 そこで初めてメガネちゃんの存在に気づいた。


「あれ、丹下さん? コンタクトにしたんだ、雰囲気が随分変わったね」

「そうそう、この丹下メガネちゃん。あんたと結構お似合いだと思うんだけど……」


 佑紀乃とメガネちゃんは何かとてつもなく嫌な予感がした。

——しかし間に合わなかった。


「この際二人、付き合っちゃえば? ね、良くない?」


 溝端は目をパチクリさせた。


「え? でも、そういうのって丹下さんがどう思ってるか……」

「メガネちゃんは好きだよ、きっと」


 メガネちゃんがカンナを全力で揺さぶった。


「もう、カンナさん、何言ってるんですか……」

「——丹下さん、それって本当なの?」


 え、そんな……とつぶやきながら、メガネちゃんは顔が茹でだこになっていた。

 溝端は真剣な表情でメガネちゃんに歩み寄った。


「あの……もし良かったら、外で二人だけで話せないかな?」


 まるで斜め上から優しい眼差しで見つめられたメガネちゃん。まるでエア壁ドンでもされたように、身動きが取れなくなっていた。

 小さくコクリと頷くと、二人は店の外に向かって行った。


「ごゆっくりねー! あたしたち先にパーマン家行っとくからー!」


 カンナが大声で、叫ぶとメガネちゃんは弱々しく振り向き、眉にしわを寄せていた。

 そしてピコンピコンと自動ドアが開く音が鳴った。


 佑紀乃がカンナの横に肩を並べた。


「二人きりで……か。やんわり断るのか、それとも……」

「俺はイケると思うな。あいつの顔、いやらしい顔してた。メガネちゃん最近可愛くなったからな」


 カンナはドレッドヘアをくるくる回した。


「うーん、でも……やっぱダメじゃね? そう簡単には行かないっしょ! じゃ、あたし達は先行っとこっかねー」


 じゃ、ひよこ豆ちゃん、また後でねー、そう叫んでからカンナはニコマートを後にした。佑紀乃とパーマンも買い物を終え、それに続いた。


 その一連の光景を、不死川はカウンターから神妙な面持ちで眺めていた。


「…………」


 喉元まで上がって来たその言葉を、今一度ぐっと飲み込んだ。

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