身に纏う凶器

「メガネちゃん、どういうこと? それはお父さんじゃないって」


 メガネちゃんはもじもじしながら、佑紀乃を上目遣いに見つめた。


「今日、講義が始まる前、実は入り口で偶然パーマンさんに会ってたんです。それで『良かった〜今日は来てくれたんだ〜』って嬉しくなって近づいて行ったんです、そうしたら……」

「そうしたら?」

「そうしたら、持ってた小銭を床にばらまいちゃって。パーマンさんがしゃがんでそれを拾ってくれようとしたんです。それで……」

「それで?」

「私は後ろにある10円玉を取ろうと振り返ったら……」


 パーマンはしゃがんでおり、頭が低いところにあった。

 そこへ、メガネちゃんが後ろの小銭を拾おうと勢い良く振り返った際、重くて黒いリュックが凄まじいエネルギーを持って振り回された。そのままその黒い塊は遠心力も持ちながらパーマンの頬を殴打。ひょろひょろな体は見事に吹っ飛ばされた。

 その後パーマンは、頬を冷やすため、氷を求めコンビニへ向かった。講義に遅れることになったのはその為だったそうだ。


 パーマンは再び赤い頬をさすった。


「前から思ってたけど、メガネちゃんのそのリュック、中身何? ボーリングの球でも入ってんのか? マジで痛かったんだけど」

「そうそう、私も気になってた。何をそんなに大事そうに背負ってるの?」


 え? これですか? と言いながら、メガネちゃんはリュックを下ろした。


「まずは……これと……」


 そう言って取り出したのは、広辞苑。類義語辞典、気持ちを表す基礎日本語辞典、などなどの分厚い本たちだった。


 パーマンはぽかんと口を開けた。

「あの、これ全部要んの?」

「まだ一回も使ってないんですけど、でもいつ必要になるかってわからないじゃないですか」

「重くない?」

「はい、重いです」


——だよねぇ。


「ようっし!」


 カンナが威勢のいい声をあげた。


「とりあえず、今夜はパーマンでぱーっとやろうぜ!」

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