第4回:語尾に気をつけよう
「それでは第4回の講義、始めまーす」
第4回の講義が始まった。カンナは明らかに落ち着きのない様子で、足をトントンさせていた。
そして辺りを見回す。やはりパーマンの姿はなかった。
「……何人かの掌編を読ませていただきました。そこで今回は語尾についてワンポイントアドバイス。少しでも魅力的な文章にするために、同じ語尾の連続は避けましょう。例えば、〇〇だった。〜〜した。××みた。というように『た』ばかりで終わる文章、通常であれば問題ありません。しかし読ませる文章となると幾分単調な印象をぬぐえません。なので、こんな風に変えてみましょう。『光男が大事そうに抱えているもの、それはレナからもらったポーチだった。匂いを嗅いでみる、懐かしい匂い。その匂いを嗅ぐだけで、光男はいつだって幼少時代にタイムスリップ出来るのだった』。こんな風に、『た』、『みる』、『匂い(体言止め)』などを混ぜることによって文章全体に抑揚がつき、リズムが出ます」
がちゃん、とドアが開いた。
入って来たのはパーマンだった。うつむき加減にパーマ頭を垂らし、頬は赤く腫れている。
そして、カバンをどさ、っと下ろし、そのまま席についた。
佑紀乃は、さっとカンナに目配せした
——ダメよ、さっき言ったよね? パーマンが自分の口から言うまでは待ってるんだよ?
カンナはその目を見て、苦い顔をしながら、話しかけたいのをぐっとこらえていた。
「……体言止めは文章に余韻を出すことのできるという重要な効果を持っています。一方であまりに体言止めが連続すると、単調な文章になってしまうので注意が必要です。ですが、体言止めをいくつも使った方が効果的な場面もあります。それがアクションシーンです。アクションシーンはスピード感が大事です。目にも留まらぬシーンで、『●●だった。刀を抜いた。左に避けた』などと書いてはせっかくの臨場感が台無しです。そこで、『一瞬の光、同時に左腕に走る激痛。斬られた、レオの刀が俺の左腕をもぎとっていた。嘆いている暇はない、すかさずレオと距離を取る。次は俺の首を狙うような視線、まだやられるわけにはいかない』というふうに臨場感やスピード感を出すことができます。はい、じゃあ今日はここまで」
生徒たちが次々と204室を後にし、気づけば4人だけが残された。
教室内が静まり返った。
最初に声をかけたのは佑紀乃だった。
「パーマン、元気だった?」
「ああ、まあな」
「パーマンさん、お久し振りです」
「お久し振りじゃねーよ」
「あのさ……どうだった? 親父さんオッケーくれた?」
——おい! あれだけ自分の口から言うのを待とうって言ったのに!
パーマンが赤く腫れた頬をさすりながら、答えた。
「あぁ、全部話したよ。俺が本当は医者なんかになりたくないこと、小説家になりたいって思ってること、自分の人生は自分で決めたいって思ってること」
「それで!?」
「そしたら……めちゃくちゃ怒鳴られた。今まで見たことないくらいに怒ってたよ。お袋は横で泣いてた」
——そりゃそうなるわな。
佑紀乃は心の中で呟いた。
「それで、お父さんは何て?」
「……医者にはなれって、どうしても。医者になってから考えろって」
「そっか、でもお医者さんの小説家ってたくさんいるし。ほら海堂 尊さんとか」
パーマンが佑紀乃を見上げた。
「海堂 尊って、あの『チーム・バチスタ』の?」
「そう。お医者さんという人生経験を積めば、なかなか他の人には書けない作品もかけるかもしれないし」
「……そうだな、それもいいかもな」
カンナはパーマンの肩を思いっきり叩いた。
「
「お前はよく頑張った、それでいい!」
そう言うと大きく何度も頷いた。それからパーマンの赤く腫れた頬をさすった。
「それにしてもひでーな、実の息子だからって殴るなんて……」
「いや、それは……」
パーマンが言おうとしたその時、
「違うんです、それはお父さんに殴られたんじゃなくて……」
メガネちゃんが突然慌て始めた。
「メガネ……ちゃん? どうしてあなたがそれを知ってるの?」
メガネちゃんは、はっ、と赤面してからうつむいた。
「それは……」
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