第3回 掌編を書く際の基本的な文章のポイント
「それでは第3回の講義を始めますよー」
相変わらず204室はガラガラだった。
第2回よりさらに人が減っているかもしれない。
「……文語と口語に注意。例えばこの違いわかりますか? 『ようやくこの街に到着したが、まだ誰も気付いてないようだった』と、『ようやくこの街についたけど、まだ誰も気付いてないみたいだった』。前者が文語、後者が口語にあたります。文章に書き慣れていないと全て口語になりがちですが、それでは文章としては不自然です。一方で、全てを文語にしなければならない訳ではありません。特にセリフ、これは口語で構いませんが、あまりに現実味を出すために『あー』とか『えーと』等が多すぎると読んでいる方は疲れてしまいます。現実味を出しながら、要点を突いたセリフにする。このように洗練されたセリフを書けるよう意識してみましょう」
減っている生徒の中で、一番気になるのはやはり、パーマンが来ていないことだった。
講義中おしゃべりを続けていたカンナも、話し相手がいないせいか、椅子にもたれながら、足をぶらぶらとさせていた。
「……はい、それでは今日の講義はこれで終わります。お疲れ様でした」
講義が終わるや否や、カンナが佑紀乃の元へ飛んで来た。
「ねえ、ゆきりん、お願いがあるんだけど」
「え、何?」
「あのさ……パーマンに、どうしたの、って聞いてくれない?」
「なんで私が? 自分で聞けばいいじゃない」
「いや、無理っしょ、あんなことあった後じゃ。ねえお願い? ダメ?」
佑紀乃は仕方なくスマホの画面を開いた。
最初の懇親会の時、先生がLINEのグループを作っていたのだ。
そこから、メッセージを個人的に送ることはできる。
「えーと、『今日はどうしたの?』これでいい?」
「いい、ありがと!」
——送信、っと。
その様子をメガネちゃんも見に来た。
「今日、パーマンさん来なかったですね」
「そうなのよ、メガネちゃん。だから今……あ! 既読になった!」
「早っ! っていうかもう返事も来たし」
その返事をみんなで見つめた。
『用事があって。どうかした?』
佑紀乃は返事を書いた。
『ちょっと心配だったから。大丈夫?』
しばらく待っても既読は付かなかった。
「あぁ、あたしこの前結構ひどいこと言っちゃったからな」
「後悔してるの?」
「後悔はしてないけど……」
ドアからバーコード頭が顔をにゅっと出した。
「あの、すいませんもうこの部屋閉めるんですけど……」
「もうっ! ちょっと待って、もう少しで返事くるから!」
「カンナさん、外で待ちませんか?」
「いーや、もうすぐ返事来るから!」
佑紀乃とメガネちゃんは思わず目を合わせてため息をついた。
「あの……みなさんにお伝えしたいことが……」
「だーかーらー、もうちょっとだけ待ってって言ってるでしょ!」
バーコード頭はしゅん、となって入り口で頭を垂れた。
カンナはじっと佑紀乃のスマホを見つめる。まだ既読は付かない。
それからまたしばらく経ってからバーコード頭が呟く。
「あの……みなさん、ちょっとお話が……」
「あー、もううるさい! 黙ってって言ってるでしょ! ……え?」
カンナが振り返ると、バーコード頭が何かを持っていた。そしてそれを見せる。
「みなさん、和気さんのご友人ですか?」
佑紀乃が二人に目をやってから答えた。
「ええ、そうですけど」
「これ、和気さんからです。もし自分を探してたら渡してくれって」
それは手紙だった。
カンナが走ってバーコード頭から手紙を奪い取ると、勢い良く封筒を開けた。
中には便箋が入っていた。
「あと、みなさん、それから……」
「あー、もうだから何よ! まだ何かあんの?」
バーコード頭はそのバーコードをぽりぽり掻いた。
「ここもう閉めるんで、外で読んでもらえますか」
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