Siri先生

「メガネちゃん、Siri知らないの? エス・アイ・アール・アイ、でSiri」

「Siri?」

「そう、スマホにHey, Siri!って呼びかけると、反応してくれるの」


 メガネちゃんは一瞬キョトンとしてから、手を口に当て、くすくすと笑いだした。


「なに、どうしたの?」

「……いや、ゆきりんさんって面白いこと言うんですね。ひょっとして人形とかにも話しかけちゃうタイプですか?」

「は? いやいや、本当よ、これ。冗談じゃないって」


 それを聞いても黒縁メガネの奥のニヤニヤは変わらなかった。


「その顔は全然信じてないね。じゃあ、やってみるよ。Hey, Siri!」


 佑紀乃のスマホが、ピピン、と音を立てて画面が表示された。


「パーマンの由来、教えて」


 すると、


 パーマンのゆラいをおしえテ、についてwebでこちラがみつカリました、ごかくにんクダサイ


 とスマホが喋りだした。

 メガネちゃんの目が目玉焼きのようにまん丸になった。


「えーー! すごい、ゆきりんさんって魔法使いだったんですか?」

「いやいや、そういう機能なの。あんたもやってみて」


 えー、できるかな、とつぶやきながら自分のスマホを取り出す。


「えーっと、いきますよ、えー、何でしたっけ?」

「Hey, Siriよ」

「はい、えー…………ダメだ、私昔から人形とかに声かけられないタイプなんです」


——いやいや、私もそんな声かけないって。


「はあ……よし、じゃあやってみます。へい、しーりー」


 反応がない。


「あれ、やっぱり私じゃダメみたいです」

「あの、しーりー、じゃなくてSiri」

「し? なんか可愛いですね」

「いや、しじゃなく、てリ」

リ?」

「そう!」


 メガネちゃんは大きく頷いた。


「やってみます。へい、しりー」


 反応はない。


「ダメだ〜やっぱりこのまえトイレに落とした事を怒ってるのかな」

「怒ってはないと思うけど、別の意味で反応はしにくいかもね、ちょっと貸して」


 佑紀乃はメガネちゃんのスマホを手に取り、口元に近づけた。


「Hey, Siri! パーマンの由来教えて」


 ポポン、ピン!

 元気よく反応した。


「あれ? すごい、やっぱり私のこと嫌いなのかな……」

「まあ別にこの機能なくてもやっていけるっちゃあ、いけるけど」


 そんなことをしているうちに、バーコード頭が戻って来た。


「お待たせしました、申し訳ありませんでした!」


 それを見て佑紀乃の胸に重いものがどさっと沈殿した。


——あぁ、そうだったこのバーコードとの決着がまだだった。


 そう考えると再び憂鬱な気分になるのだった。


(序章:終わり 閑話休題の後、第1章:和気廉太郎という男 へ続く)

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