スキンヘッド

 すっ、とスキンヘッドは立ち上がった。


不死川ふじがわ 玄太げんた、32歳。今コンビニでバイトしながら生計立ててます」


 皆うつむき、机をじっと見つめていた、カンナ以外は。特にパーマンのうつむき加減は尋常ではなく、首の骨が折れそうだった。そしてこんなことを念じていた。


——はい、もう終わりでいいぞ。こんなやつの自己紹介ロクなものじゃねえって、変な事聞かされて、命狙われてもつまんねえし。そもそもコンビニってなんだよ、どっかの組の隠語か?


「あなたが不死川ふじがわさんですね、名簿見たとき、珍しい名前だなって思ったんです。ご出身は奈良ですか?」

「……はい」


 佑紀乃も肩に力を入れ、一生懸命机の上の前菜を見つめていた。


——もうそれくらいでいいんじゃない? あまり立ち入らない方が身のためだよ、先生。


「不死川さん。小説を書きたいと思った理由はなんですか?」


——あぁ、やっぱ聞くのね。ルーティーン的に……。


 不死川はどこかをみつめながら、淡々と答える。

「自分、中学、高校と施設に入ってました」


 パーマンが一瞬だけ、喉元を締め上げられたような顔でスキンヘッドを見てから、再び視線を落とした。


——来たわ、それ聞いちゃいけなかったんじゃないの、やっぱり。


 スキンヘッドは視線を斜め下に向け、じっと何かを睨みながら続けた。


「……学校とか社会とか、全然面白くなくて、やりたい放題やってました。万引きとか、放火まがいのことでマッポにもよくお世話になりました。そんな自分の心の支えが……小説でした。だからいつか自分でも書いてみたいな、って思ったんで」


——はい、そこまでにしよう、おしまい!


 みんな、少なくともパーマン、メガネ、佑紀乃の意見は一致していたようだ。大きく頷いて、そこで終わりにしようとしていた。


「じゃあ、あだ名はねぇ……」


——おい、チリチリ! まじでふざけんなよ? いくらあんただってここは……


「決めた! ウミボウズかひよこ豆! どっちがいい?」


 一気にその場の空気が凍りついた。

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