メガネちゃん

「あ、あの……私、丹下たんげ青葉あおばと言います。関東経済大学の2年生です。趣味も特技も特にありません、はい。宜しくお願いします」


 座りかけて、あっ、と漏らすと再び立ち上がった。


「小説を書こうと思ったきっかけですよね、もともと少女漫画が好きで、漫画家になりたかったんです。でも絵がヘタクソで……才能ないなって思って。それで小説なら絵が下手でも大丈夫かな、なんて思ったんです。小説を馬鹿にした動機ですよね、すみません、もしあれでしたら……すぐにやめます!」


 先生はにこにこして答えた。


「いえいえ、いいんですよ。動機はみな人それぞれ。みんな違ってみんな良いんです」


——というか、今までのみんな、小説を書きたいという動機すら全く無かったよね? まだマシな方だよ、これ。


 立ち尽くしながら俯き加減、もじもじしているメガネ女を佑紀乃は見つめていた。セミロングの黒髪に黒縁メガネ。白シャツになぜかまだリュックを背負っている。はっきり言って煌びやかさが全くない、そんな女性だった。しかし……


——確かに地味だわ、この娘。でももっと服装変えて、にこりとできれば意外と可愛くなるかもしれない。とりあえず、リュック降ろせばいいのに。


 何が入っているのかわからないが、その黒いリュックはかなり重そうだった。


「うーん、君はメガネちゃんでいっか! はい、つぎ〜」


——あぁ、私だ、どうしよう……


 佑紀乃は力なく立ち上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る