懇親会に参加する人は一人もいなかった

 結局佑紀乃は最後まで講義を聞いた。

 内容は主語と述語について。接続詞について、修飾語について。「ら」抜き言葉に注意、敬語について……。

 講義が終了するまで、料理の「り」の字も出てこなかった。敢えて近い言葉といったら「オノマトペ」がひょっとしたら料理の名前かもしれないと期待したが、どうやら違っていたようだ。


「みなさん、お疲れ様でした! これから3か月間、よろしくお願いしますね。早速なんですが、この後懇親会を設定しています。場所は駅前の『ぼんちゃん』10人で予約しましたので、是非みなさん参加してください。詳しい地図を今から書きますね……」


 そう言いながら、ニコニコと懇親会の場所を黒板に書く先生をよそに、生徒の皆は黙って部屋を出て行った。時刻はすでに21時を過ぎている。


 佑紀乃のお腹が、くぅと鳴った。

 それもそのはず、昼食後何も口にしていない。料理教室の具材をつまみ食いして空腹を凌ごう思っていたからだ。


「それではみなさん、あれ?」


 先生が黒板から振り返ったとき、生徒は佑紀乃一人だった。


「あぁ、あなたは最後に入ってこられた生徒ですね。懇親会参加されますか?」


 佑紀乃は思った。


——いやいや、小説なんて興味ないし、しかもよく分からない初めて会ったこの先生とマンツーマンはさすがにきつい。でも私が行かなかったらひょっとして、参加者ゼロ? 自分を守るか、このかわいそうなおじさんに同情するか。どうしよう……。


 佑紀乃の目が鋭く光った。喉元がごくりと鳴った。

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