講義は突然始まった

 ドアノブがゆっくり回り、ドアが開く。

 皆が固唾を飲んでその様子を見つめていた。

 そして入って来たのが、人であることが確認された直後、先生の拍手が響いた。それだけではない、他の生徒の拍手も加わり、一気にその空間はパチパチという喧騒で満たされた。


 入って来た女は、辺りをゆっくり見渡した。

 みんなこっちを見ている、大きな拍手はどうやら自分に向けられているようだ。

 一往復、二往復とその場を見遣った。それから確信した。入る部屋を間違えた。

 そのままゆっくりと部屋を出る、そしてドアを締めた。


「おいこら! 待て!」


 パーマ男が急いで女を追いかけ、連れ戻した。


「あんたが来ねえと始まんねえんだからさ、頼むよ。これからは遅れないでな」


 女は言われるがまま椅子に座らされた。

 それからこう呟く。


「あの……ここって粟原はるみ……」

「はい、ようやく生徒全員が揃いました」


 遮るように先生の明るい声が響いた。芯の通った、それでいて聞いていて心地の良い声だった。


「ようこそ『あなたもステキな作品を書ける! 0から始める小説講座』へ。この講座が終わる頃にはきっとあなたも素敵な作品を書けるようになっていますよ。なんかワクワクしますね〜」


 ……あれ? なんか違う……


 女、三十路のカウントダウンが始まって部屋で孤独死しないために料理の腕を磨きに来た哀れなアラサー女、葛城 佑紀乃は疑問を抱えながらも、


……ああそっか。料理を作る前の心構え、みたいなもん? かな?……


 と自分を納得させた。

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