第6話 塔からの侵略者

 アリスの悲鳴──ほぼ一瞬で相手の間合いにもっていかれたら、誰でもそうなる。


 当然──俺を除いて。


 男が接近し短刀を突き出した瞬間、俺は半身を反らして短刀を避けた。そして、男の胸に剣を突き立てる。ズサッ──即座に男の背中越しに剣先が見えた──。

 (なんだ?)

 違和感と同時に俺は剣を手放し、男を蹴り飛ばし反対側へ飛んだ──その瞬間、今まで俺の首があった所を男の短刀が通り過ぎていく。

「どういう事だっ!」

 アリスの顔を見る。

「首を切り落としてっ!」

 彼女がなけなしの短刀を俺に投げたのは俺がそっちの方を向いたのと同時だった──そして、受け取った瞬間。


 バチリ──。


 暫しの間が空いて、一つ、俺の足元で倒れる音がした。

「……普通、刃物を渡すときは手渡しだけどな」


「凄まじいですね……」

 彼女の方を見ると、俺の話を聞いている様子は無かった。起きている事が信じられない、そんな表情だった。彼女を観察していると、カランッと金属が床に落ちるような音がした。

「っ!」

 バッと下を見ると──。


 男の死体は消えていた。血の跡も──そもそも、さっき剣を突き刺した時ですら血は出てなかった。男が消えた所には最初に俺が突き刺した剣と変な親指位の棒状の物だけが残っていた。

「どういう事だ?」

 剣と棒状の物を拾いながらアリスの方を向く。

「──それが塔からの侵略者の特徴です。首を切り落とすまで死なない、血も流さない」

 彼女が近づきながら答える。

「とんでもない連中だな」

「そして、首を切り落とすと跡形もなく消え、そのお持ちになってる棒貨と呼ばれる物だけを残します」

 アリスは立ち止まり、俺を見上げる。仮面越しに目が合った。

「……助かったよ。これは返しておく」

 そう言って、剣と短剣の柄を彼女に向ける。

「こちらこそ、助けて頂きありがとうございました。別に貴方なら剣など無くとも簡単に倒してしまったでしょうけど」

 口元に笑みを見せながら、彼女は受け取った剣と短剣を鞘に納めていく。

 カチッ──。

「……」

 (まつ毛が長いな)

 そんな事を思いながら、口元とは裏腹に目元には力が入っており警戒心が解けてないことが伺えた。まるでこちらを探るように。聞きたいことは沢山あるのだろう。だが、何を聞いたらいいのかわからない、そんな状態だ。


「……さて、幾つか質問してもよろしいでしょうか?」

 俺は手で続きを促した。


 その時、俺の頭には再びペンダントからの警告が届いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る