第3話

「バズビーズチェアに座る死神、か」

「え、気になったのそこ?」

 柳都は授業に行くという月見里にはついていかず、自分のことが視える雪比奈と話をすることにした。死神の言っていた面白い人間というのは雪比奈のことだろう。確かに彼をかいせば柳都は月見里と会話をすることが出来る。

「いや、奥さんを殺した犯人が誰なのかも気になるところだ。そろそろ読書に戻ってもいいだろうか」

「お願い俺に興味を持って!」

 そう叫ぶと雪比奈は不満そうな顔をしながらも文庫本に伸ばした手をひっこめた。彼はジーンズに灰色のトレーナーという、よく言えば地味悪く言えばダサい格好をしている。容姿は悪い方ではないのだろうが、今起きましたというようなぼさぼさの髪と目の下の濃い隈がそれを台無しにしてしまっている。もし生きているときに出会っていたならば柳都は彼を一瞥した後にだせぇと嘲笑していたことだろう。

「正直なところ僕は君の死に何の感慨もない。テレビで死亡事故のニューズを見て死者を哀れには思えど次の日には忘れているのとまったく同じ感覚だ」

「……」

 その感覚はすごくわかる。何人もが亡くなった通り魔事件のニュースを見た時被害者たちをとても可哀想に思った。目立ちたかったなんてくだらない理由で犯行に及んだ犯人に嫌悪感を覚えた。しかし柳都は次の日にはいつも通り学校に行ったし、放課後はカラオケで思う存分騒いだ。前日に見たニュースのことなど、一度だって思い出しはしなかった。

「このまま何事もなく三日過ぎてしまえばいいのに、と本気で思っている」

 長い前髪から覘く瞳が無感情に柳都を写す。柳都はごくりと喉を鳴らした。

このまま何もできずにただ死んでいくのはごめんだ。だけど、月見里に死んでくれという勇気は柳都にはなかった。自分に選択権がないことは柳都にとって不幸であるが、幸運でもあったのかもしれない。

「だが、このまま見過ごすのでは後味が悪い。月見里も納得しないだろう」

 だから、と雪比奈はため息をついた。心底面倒臭そうにぐしゃぐしゃと頭を掻き乱す。

「一言だけだ。一言だけ、君の言葉を月見里に伝えてやろう」

 せいぜい後悔しない言葉を選ぶことだ。そういった雪比奈の表情はあの女に酷似したものだった。

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