第14話「作戦成功」
14話「作戦成功」
ずっと誰にも伝えなかった、伝えたくもなかった本当の気持ち。
それを出は知っていた。
彼には隠し事など出来るはずもなかったのだと、立夏は今更ながらに気づいた。
「どうして、それを……。」
「俺は立夏をずっと見てきたから、知ってるよ。小さな頃から、秋文が好きで、そして千春と出会ってから、その気持ちを諦めたことを。」
「………そう、だったんだ………。」
千春は、自分の体から力が抜けていくのを感じた。
するほど、止まっていた涙もまた少しずつ流れ始めた。
この人には、自分の気持ちを隠さなくてもいいんだ。そう思った瞬間から、何故か顔が微笑んでしまっていた。
「私、本当に小さい頃から秋文に惹かれてた。気づいたら好きになってたの。でも、秋文とは腐れ縁だったし、男同士みたいな遊びをしたり、喧嘩をしたりで……。秋文が私を好きになることはないってわかってた。それに、私自身も彼と付き合っても、きっと上手くいかないだろうって、わかっていた。」
「………立夏……。」
思い出したくない過去を話しながら、立夏は苦笑した。
秋文と立夏は、近すぎた。そして、似すぎてきた。彼と付き合っても、喧嘩が絶えなかっただろうし、彼が好きな女性にはなれないとわかっていた。
「だからね、私が千春と友達になって、2人に紹介した時、秋文が一瞬で千春に心を奪われていたのがすぐにわかった。……千春に会った瞬間から、秋文は千春に惹かれていたの。」
「あぁ………そうだったな。あいつは一見読めない奴に見てるけど、わかりやすい。」
「そうだよね。……そんな秋文の表情を見るのは初めてだったから、私も驚いたし、少し嫉妬したけれど……すぐに諦めてしまったの。」
「………。」
「あぁ、この子には勝てないんだって。……そう思った時点で、私が負けてしまったんだろうね。」
立夏は自嘲気味に笑いながら、まだ目元に残る涙を手で乱暴に拭きながら、話しを続けた。
思い出したくない過去だとしても、誰にも話せなかった記憶。
それを口にすると、一気に言葉が溢れ出てしまう。立夏は自分の口を止めることが出来なかった。
「秋文には幸せになってほしいって思うし、私から見ても千春はいい子で可愛いから、2人が幸せになってくれればいいなって………。でも、秋文が片想いをしている間は、少しだけ安心してた。もしかしたら、って淡い期待をしてたんだろうね。ほんと、バカみたい。」
立夏が自分を卑下すると、出は首を横に振った。そんな事はない、と言っているようだった。
それを見て、立夏は微笑みながら、小さく息を吐いた。
「でも、付き合い始めた2人を見たら、なんか安心したの。お似合いだし、やっぱり私じゃダメだったってわかったから。……まぁ、1回は千春に当たっちゃったけどね。」
「………あの、元彼のところに行ってしまった時か?」
「そう……。あれは、私の気持ちが入っていてしまっていたわ。」
「……あれはあれで伝えた方が良かった事だと思うよ。きっと、秋文も嬉しかったと思う。」
「そう、だといいけど。」
立夏は、照れを隠しながらもニッコリと笑うと、出も安心したようにつられて微笑んだ。
そんな彼を見て、立夏は思った。
こんな事までわかっていても、自分に告白し続けた出の気持ちがわからなかった。
未練がましく、秋文のような男性と付き合い、失敗を繰り返していくのは、自分でも愚かな事をしていたと思う。
そんな自分を見ていても、好きだと言い続けてくれる。
彼の気持ちが大きすぎて、立夏は心配になってしまう。
彼に愛される資格があるのだろうか、と。
「出は、何回も告白してくれるけれど、私は出に愛してもらえるような女じゃないと思うよ。」
「そんな事ないさ。さっき、告白した時に言ったように、魅力的なところがたくさんあるよ。」
「でも………。」
「親友の気持ちを大切にして、自分の気持ちを諦めるなんて、なかなか出来ないよ。」
「それは、私に勇気がなかっただけだよ!」
「上手くいかないとわかっている恋愛を、諦めるのも勇気がいるだろう?」
「………っっ、出は本当に私に甘すぎるよ。」
止まったはずの涙が、彼の言葉を耳にした瞬間、また次々に溢れ出してきた。
それを出は丁寧に指ですくってくれる。
「なぁ、立夏。そろそろ、告白の返事をくれないか。もう何年も待ちわびてるんだ。」
「……もう言わなくてもわかってるくせに……。」
「立夏の言葉で聞きたいんだよ。」
「……それは………。」
立夏はまだ、自分の気持ちがわからなかった。
出が好きなのだろうか………?
確かに、今日出が来ないと思ったら悲しくて、会いたいと思った。それにそれまで彼女の話しをしなかった出が、急に写真を見てしまい動揺したのも確かだった。
けれど、それは、彼を好きという事になるのだろうか?
立夏は、迷ってしまった。
「付き合ってくれないか?」
「……出、私自分の気持ちがまだわからないの。出に今日会えなかったらって思ったら寂しくて仕方がなかったし、知らない女の人に嫉妬もしたし………。」
「そうか。けど、それだけでも、俺は嬉しいしな。そんな事、立夏に言われたことなかったから。」
「そうだけど、それでいいの?」
「必ず立夏に俺が好きだって言わせて見せるよ。だから、今はそのままでいいから。恋人みたいに、一緒にいてくれないか。もちろん、立夏が嫌がる事はしないから。」
「それだったらいい、かな。」
立夏が赤くなって、彼を見上げながらそう言うと、出はすぐに立夏を抱きしめた。
彼の熱と匂いに包まれて、立夏は恥ずかしさから身をよじらせた。
「ちょっとー!出、痛いよっ!」
「やっと立夏とこんな事が出来るようになったんだ、少しだけ堪能させてくれ。」
「もぅ………。」
耳元で出の低音の声が響いた。
それだけで、気持ちがドキドキして、緊張してしまう。
立夏はわかっていた。
きっと、近い将来、彼を好きになっているだろうと。
自分の事だ、立夏がよくわかっている。
彼の腕の中で、甘い時間を堪能していたかったけれど、1つ気になることがあった。
それがどうしても気になってしまい、彼にキツく抱きしめられているなか、顔だけを上げて、出を聞いてみた。
「そう言えば、今更だけど……あの写真の女の子は?ファンの子?」
「それは………話そうと思っていたんだけど、怒らないか?」
「ん?」
出の話しを聞いた立夏は、その後、夜中にも関わらず千春に電話をして説教をしたのは言うまでもなかった。
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