第13話「作戦完了」
13話「作戦完了」
☆☆☆
「あぁーー!!上手くいかなーい!!」
立夏は、自宅に帰ってすぐに、自分のバックをベットに投げつけて大きな声で騒いだ。
きっと隣の部屋の人はビックリしているだろうな、と思いながらも、立夏は我慢出来なかった。
千春が誕生日をお祝いしてくれた日から、立夏は自分でもわかるぐらい落ち着きがなかった。
ソワソワしたり、ボーッとしてしまったり、そして不安になったりと、感情が安定しないのだ。
その原因は立夏もわかっている。
千春が話してくれた事が気になってしまうのだ。
「なんで、出の事なんか……。」
頭の中には、千春が見せてくれた知らない女の人と一緒に微笑む出の写真ばかりが残っていた。
毎年自分に告白してくる出。それを断るのが恒例になってしまっていた。
出が嫌いなわけではない。恋愛対象として見れないだけだった。
叶わない恋なんて、たくさんある。
何回も告白されたから付き合うって、ダメになったら、出はどうするのだろうか。
それに付き合ってみて、彼から想像と違ったと言われるかもしれない。
彼はそんな男ではないのはわかっているけれど、不安になってしまう。
「叶わない恋を無理矢理叶えようとしても、上手くいかない事があるなんて、私がよく知ってる……。」
呟くようにそういうと、テーブルの上に置いて飾ったままだった、千春と秋文から貰ったバックが目に入った。
立夏は、それを大切に持ち上げて、優しく抱きしめた。
「わかっているのに、出が離れていくってわかった途端に、不安になるなんて……。私、どうしたいんだろう?」
出は、私を好きでいてくれる。
その安心感はとても心地よかった。彼がいてくれるなら、いろんな事が出来る気がした。
間違ったり、寂しいことがあったら、戻ってこれる場所があったのだ。
でも、それはとても残酷な事だと立夏は今更気づいた。
待っている間、出はどんな気持ちだったのだろうか。
秋文と、そして私と同じ気持ちだったのだと思うと、幼馴染み4人で何をしているんだろう、立夏は苦笑してしまう。
「………私も失恋したからって、甘えてたんだろうな。ずっと影を追いかけて……そんなの上手くいくはずないのにね。」
泣きそうになるのをグッと堪え、立夏はバックを抱きしめたまま、ゴロンとベットに横になった。
「出は、こんな私と一緒になって幸せなのかな。……そんな風には思えないよ。」
立夏は、何も考えたくなくなり、ゆっくりと目を瞑った。
その時、頭に浮かんだのは誰だったのか。
立夏はわからないまま、夢の世界へと意識を飛ばした。
悩んでいる時間はあっという間だった。
何も解決も出来ず、自分の気持ちの整理も出来ないまま、立夏の誕生日がやってきてしまった。
仕事だったら気が紛れたものの、少し前まで彼氏がいたこともあり、誕生日当日は休みにしてしまっていた。
「はぁー……1日、何して過ごそう。」
言葉ではそんな事を言っていても、いつスマホが鳴るのか、チャイムがなるのか。
立夏は1日中ドキドキしていた。
早くこの緊張状態から解放されたい気持ちもあったけれど、もし出がきて、いつものように告白をされても、何て答えればいいのかわからなかった。
この場から逃げ出してしまいたくもなったけれど、出が来たときにどんな気持ちになるだろうと考えるだけで、立夏は切なくなってしまうので出来るはずがなかった。
そうやって、ソワソワしながら過ごしているうちに、お昼になり、夕方になり、そして辺りは闇に包まれ、夜になってしまった。
立夏は、ベットに体育座りになって足を抱きしめるように座りながら顔を伏せていた。
もう少しで誕生日が終わってしまう。
あと少しで出が来なかったら、もう立夏に告白するのを止めたという事だ。
きっと、今ごろはあの写真の女の子と一緒に過ごしているのだろう。可愛らしくて、女の子らしい、立夏とは全くタイプの違うあの女の子と。
あんな子に好意を持たれたら誰でもドキドキしてしまうだろう。きっと、出もそうなのだ。
「私と全然違うタイプの子なのに……私は、もうイヤなのかな。まぁ、そうだよね、何回も告白断られて嬉しい人なんて、いないよね。」
毎年見る、切ない顔で微笑みながら去っていく出。その表情と背中を見ることが出来なくて、立夏はすぐに逃げてしまっていた。
「……告白しなくていいから……誕生日に出に会いたいよ……。そして、今までのこと謝らせてよ。」
本当にイヤだったら、きっぱりと断ればよかった。それを出来なかったのは甘えだ。
立夏はずるずると昔の恋を引きずったままここまで来てしまった。それを諦めるまで、彼はずっと側にいてくれる。そんな風に無意識に思っていたのかもしれない。
だから、本気じゃない恋愛を続けていた。
この人とは合わないと、わかっていても付き合ってしまっていた。
何をやっていたのだろうか。
出が目の前からいなくなろうとして、やっと気づいたのだ。
自分のバカな行いと、気持ちに気づいた時。
立夏は、ポロポロと涙が流れてきた。
日付けが変わるまで、あと15分しかない。
「なんで、来てくれないの……出。私のこと、好きだって言ってくれていたのに。どうして、今、来てくれないの?」
わんわんと涙を止めずに、喘ぐように言葉を紡ぎ、泣き続けた。
すると、家の外の廊下をゆったりと歩く足音が聞こえてきた。その音はどんどん近づいてくる。
立夏は、ハッとしてベットから立ち上がり、泣き顔のまま部屋を飛び出した。
他の人だなんて考えもしなかった。
部屋の鍵を開けて、勢いよく玄関の扉を開けた。
「っっ………!」
「おっと……、ダメじゃないか、こんな夜中にいきなりドアを開けたちゃ……って、立夏?どうしたんだ?なんで、そんなに泣いて………。」
「………出……っっ!」
立夏は、気づくと出に抱きついていた。
彼の顔を見た瞬間、安堵した気持ちと、切ない気持ちと、会いたかったという気持ちが一気に押し寄せてきたのだ。
出は突然の事に、驚いているようでしばらく「立夏?どうした?」と聞いていたけれど、立夏が泣き続けているとわかると、優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。
何も言わず、ただただ優しく立夏が落ち着くのを待っていた。
「……なんで、こんなに遅いのよ!ずっとずっと待ってた。それに、私の事好きなのに、違う女の子とデートしないで……。」
「あぁ、そうだな。悪かった。」
立夏自身でも、強気で我が儘な事を言っているとわかっている。
けれど、それが今の素直な気持ちだった。
すると、少し笑いを含んだ彼の声が聞こえてくる。
「なんで笑ってるの!?」
「いや………かわいいなーと思って。」
「……今の言葉を可愛いと思えるなんて、出は重症だよ。」
「ここまで立夏を好きでいたんだ。重症だと俺も思うよ。」
「ほんと、出はバカよ………。」
立夏は、自分から体を彼の胸に押しつけるようにくっつくと、彼の雰囲気が更に優しくなるのを感じた。
「立夏……抱きつかれるの嬉しいんだけど、あと時間が少ししかないんだ……。」
「え、帰っちゃうの?」
「いや、立夏の誕生日が終わってしまう。」
「あ………。」
そうだ。
先程時計を見たときは、あと少ししか時間がなかった。もう、彼から告白してもらえる時間が少ないのだ。
出は立夏からゆっくりと離れた。
そして、部屋の中に入ると、薄暗い中で立夏の両手を握った。
「立夏が好きだよ。……綺麗で可愛くて、実は女の子らしい物が好きで、泣き虫で、一途な君が………。」
「え………。」
「立夏は、秋文が好きだったんだろう?」
「っ!!」
出のまさかの言葉を聞いて、立夏は息が止まりそうになった。
立夏は、秋文への気持ちを誰にも話した事がなかった。それなのに、彼は気づいていたのだ。
立夏は動揺した瞳で、出を見つめることしか出来なかった。
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