第12話「作戦実行」
12話「作戦実行」
千春と秋文の部屋で四季組の飲み会をしてから数週間後。
夏も本番になり、立夏の誕生日が間近に迫っていたある日、千春は立夏と食事に来ていた。
「少し早いけど、立夏お誕生日おめでとー!はい、プレゼントー!」
「ありがとう、千春。……もしかして、このブランドって……。」
「そうそう。立夏が前にほしいって言ってたのだよ。再入荷してたから買っておいたんだ。」
立夏は、嬉しそうにプレゼントを開封し、箱から出てきたバックを嬉しそうに見つめた。
「ーーっっ!これ、本当にほしかったの!でも、こんなに高価なのいいの?」
「秋文と一緒に買ったから。大丈夫だよ。」
「……そっか。じゃあ、あいつにも会ったらお礼言わなきゃね。」
立夏は、千春と秋文がプレゼントとした小ぶりのバックを抱きしめながら、嬉しそうに笑った。
立夏は、見た目はかっこいい女性で、ショートカットがよく似合うモデルをしていてもおかしくないスタイルだった。
けれど、笑った顔はとても可愛らしいし、持ち物も小物などは女の子らしい物を好んでいた。
自分が似合う服装をしているけれど、本当は可愛い物が大好きなな普通の女の子なのだと、千春は知っていた。
先ほどプレゼントしたバックにも、さりげなく花の刺繍があり、かっこいいだけではない、さりげない可愛らしさが立夏にピッタリな物だった。
「今年の誕生日当日はどうするの?」
「んー、彼氏もいないし、のんびりかなー……。」
「でも、出とは会うんでしょ?」
「…………たぶん、会いに来るんじゃない?ほんと、あいつも懲りないよね。」
立夏は、出の恋愛の話になるの、いつも気まずそうにする。毎年告白されて断っているのだ、当たり前かもしれない。
それでも、幼馴染みとして付き合い続けているのは、立夏が出を認めているからだとわかる。
嫌いではない。けれど、恋愛対象にはならない。…よくある話しだ。
「あ、でも、もしかしたら今回出は来ないかもよ?」
「え……。」
「出、とっても可愛い女の子に告白されたって言ってたみたいで。秋文から聞いたんだけど……。」
「そ、そうなんだ……。」
「あ、写真みる?デートには行ったみたいだよ。」
千春は、スマホを取り出して写真フォルダを開いて見せた。
スマホの画面に表示されているのは、立夏とは正反対の小さくて可愛い系の素朴な女の子とぎこになく微笑む出だった。
どこかのカフェだろうか、手元にコーヒーカップが2つ見えた。デートに行った時の写真だというのがわかるように撮影されていた。
それを立夏に見せると、彼女の表情が揺らいだのがわかった。
瞳が揺れて、口元をキュッと噛み締めていた。
「可愛い子だよね。」
「……そうだね。出にお似合いなんじゃないかな?……あー、私だけが独り者になっちゃうなー。」
冗談を言いながら、コーヒーを飲んでいる立夏だけれども、目が泳いでおり、千春の方を見ないようにしていた。
そんな立夏にいつもならば気づかないふりをした。けれど、今日の千春は違った。
「ねぇ、立夏。出の事、どう思う?」
「どうって……。」
「もう立夏に告白しないって言われたら、どんな気持ちになる?もう、次で最後かもしれないよ。」
「………それは。」
立夏は、泣きそうな顔になりながらも、何かを考えた後に、フッと小さく微笑んだ。
「もう私なんかに囚われないで恋愛できるなら、いいんじゃないかな……。」
「立夏………、立夏は本当にそれでいいの?」
「いいの!だって、私は何回も出の告白を断り続けてる。………最後も同じよ。」
「ねぇ、立夏……。」
千春は、少し荒立っている立夏の手を両手で握り、じっと彼女の目を見つめた。
そして、にっこりと微笑んだ。
「立夏は秋文に告白されて迷っていた時に、私に言ってくれたよね。」
「…………。」
「「素の自分を見てくれて、「好き。」って言ってくれる人って、なかなかいないと思うよ。」って。私も、そう、思う。」
「…………千春。」
「立夏、出の事、少し考えて見てあげて?………きっと、出はまだ立夏の事を見ていてくれているはずだから。」
千春は、そう言ってぎゅっと力を込めて立夏の手を握る。
立夏は、それからしばらくは無言のまま遠くを見つめていた。
★★★
千春と秋文と、作戦会議をした時。
出は若干の不安を覚えていた。
千春が考えた作戦というのは、単純なものだった。
出と女の子がデートをしている写真を見せてみるという物だった。
立夏が少しでも出に、気があるのならばきっと動揺するだろう、という考えだ。
それで、もし「お似合いだねー。よかったじゃん!」で、終わってしまう可能性もある。けれど、この結果だったら出が告白しても、受けてはくれないだろう、という考えだった。
千春が、それとなく出が最後に告白するらしい、という事を伝えて、立夏がどんな感情を覚えるか。
告白される事が当たり前で、されなくなると考えたらどう思うのか。
そうやって、立夏に出の事を考える時間を与えよう、というのが今回の作戦だったようだ。
「けれど、これは立夏に嘘をついたことになるんだよな。」
出は、自室でひとり呟き、ため息をついた。
立夏に見せた写真の女性は、千春の友人だった。作戦実行のために手伝ってくれたのだ。そして、既婚者だ。
だから、彼女とデートをするわけもなく、千春と友人、そして出の3人でお茶をしただけだった。
立夏の気持ちを知りたいのは、前々から思っていた事だ。告白しても断られているのだから、自分の事は好きにならないの、もうわかっていた。
けれど、秋文と千春が付き合うようになって、出は少し期待してしまったのだ。
千春は、秋文に好意を全くもっていなかった。それなのに、あんなにも秋文も好きになり、幸せそうに笑うのだ。
もしかしたら、立夏も同じように気持ちを変えてくれるかもしれない。
彼女が振り向いてくれるかもしれない、と。
けれども、彼女は相変わらずに出の告白を断りつづけた。
そして、今度は彼女に嘘をついてまで、彼女の気持ちを確認使用としている。
「ますます嫌われないか………?」
そんな不安が頭をよぎる。
今回、告白をして断られたら、きっぱりと諦めよう。そして、四季組の親友として一生付き合っていくのだ。
それだけは、どうしても続けたかった。
出の大切な居場所だから。
「立夏だって、始めは我慢してたんだ。俺も、完全に諦めなきゃいけない日が来たんだろうな。」
そう、立夏も辛い経験をしているのだ。
あんなにも彼を想っていたのに。
「嘘はだめだな。ちゃんと謝ろう………告白した後に。」
今すぐに謝れない自分は弱いな、と思いながら、出はため息をついた。
立夏の誕生日はもうすぐだ。
彼女に会えるというのに、こんなにも切ない気持ちになるのは、もう何回目だろうか。
そんなことを、考えながら出はゆっくりと目を閉じた。
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