第11話「作戦会議」






   11話「作戦会議」





 「さすが、私の幼馴染み!よくやったー!」

 「でしょー。秋文かっこいいよね。」

 「おまえら、………飲み過ぎ。」


 秋文はため息をつきながら、酔っぱらっている千春と立夏をジロリと見つめた。

 


 今日は、秋文と千春の家で、月に1度の四季組の飲み会だった。

 女性2人だけではなく、秋文や出もお酒を飲めるようにと、千春が考えたのだ。

 立夏と出が、自宅に泊まればいいと、思いついたのだ。

 料理もそれぞれが好きなものを千春が作ってもてなせるし、お酒も4人で思いきって飲める。いい考えだと思っていたけれど、結局酔っぱらうのは千春と立夏だけだった。


 

 そして、話しは秋文が駿とケンカした話題になっていた。



 「私もそのダメ男にガツンと言ってやりたかった!何で呼ばなかったのよー、秋文ー!」

 「おまえ呼んだら、本当に殴りかかるだろ。」

 「当たり前!」

 「……怖い女だな。」



 そんないつものやり取りを見つめて、千春と出は微笑んでしまう。

 この4人で過ごす空間はとても心地よくて、千春の大切な場所だった。



 「新婚生活も円満そうで何よりだよ。」

 「ありがとう、出。」



 出の優しい言葉は、千春を落ち着かせてくれる。こんなに素敵な男性なのに、まだ結婚をしないだなんて、千春は勿体無くて仕方がないと思っていた。



 「もう少しで、立夏の誕生日だけど……今年もするの?」

 「そうだな……そのつもりだけど。」

 「だけど……?」

 「いろいろ悩んでる。」

 「そっか……。」



 出の表情はいつもと変わらないように見えたけれど、千春は少しだけ切なそうにしているのがわかった。

 出が悩んでいるのがわかっていた。

 千春は、少しずつ酔っていた頭が、覚めていくのが自分でもわかった。



 「ねー!2人とも何してるの?」

 「このお酒おいしねって話してたの。それより、立夏。彼氏とはどうなの?」



 前回、同い年のイケメンの彼氏が出来たと話していたので、千春はその話題をふってみた。けれど、地雷を踏んでしまったようで、彼女の表情が一気に暗くなった。



 「え………まさか、もう………?」

 「別れたっ!」

 「ど、どうして?あんなにラブラブそうだったのに。」

 「………浮気されてたの。」

 「うわ………おまえも男見る目ないよな。」

 「「秋文っっ!!」」



 秋文の嫌みに、千春と立夏は大きな声で反論する。けれど、正論すぎて何も言い返せないのが悲しい。



 「立夏。私が言える立場じゃないけど、誠実で真面目な人と付き合ってみたら?」

 「………だって、好きなタイプじゃないんだもん。」

 「………立夏……。」


 

 立夏は気まずそうに、俯いてしまう。

 千春は、ここで話すことではなかったと自分の言葉を反省しながら、彼女の肩に触れようとした。

 けれど、その瞬間、立夏は勢いよく立ち上がったのだ。



 「お風呂、借りるね。」

 「う、うん……着替えとタオルは脱衣所に準備してあるけど………酔っているのに大丈夫?」

 「そんなに酔ってないから。じゃあ、借りるね。」



 立夏は、少し悲しげな顔を無理をして作った笑顔を見せていた。それがとても切なくて、千春は胸が苦しくなる。

 逃げるように去っていく立夏を、千春は見つめていた。





 「あいつ、大丈夫なのか?」

 「うん……心配だよね。」

 「あいつは、千春より男の趣味悪いからなー。」

 「秋文、千春が凹んでるぞ。」

 「……もう言われなれてきたけど……。」



 千春は、秋文に反抗もせずに立夏の事を考えていた。


 立夏は、男らしくて少し遊びなれている人が好きだった。「真面目な人はつまらない。少し刺激がある方が恋愛はおもしろい。」と言っていたけれど、立夏の恋愛は長く続くことはほとんどなかったのだ。

 けれども、立夏は美人であったし明るい性格からすぐに次の相手が出来ていた。



 「出も苦労するな。……今年も告白するのか?」

 「………そうだな。今年は、そのつもりだ。」

 「今年はって………まさか。」

 「今年で最後にしようかと思ってる。」



 出は、「予定より長くなってしまったけどな。」と、苦しそうに笑った。




 出は、中学生の頃から立夏が好きだった。

 初めて誕生日に、告白してから毎年同じ日に立夏に告白していた。

 そして、毎年立夏の答えは同じ「ごめんなさい。」だった。

 その間、出も彼女を作ったことはあったけれど、いつも長続きしないのか、それとも立夏の誕生日に告白するつもりだからなのか、1年ももたずに別れていた。

 それぐらいに、一途に立夏を思っているのだ。

 千春は1度だけ出に「立夏のどんなところが好きなの?」と聞いてみた事があった。すると、「素直で可愛いところ、かな。」と、照れた表情を浮かべた。それが、とても初々しくキラキラとした少年のような微笑みだったのを、千春は覚えていた。


 それなのに、出は今年でその告白を止めようとしている。

 とても長い期間の片想い。どうして今、やめようと思ったのだろうか。



 「そろそろ俺も諦めなきゃだめだろうなと思って。秋文と千春もこうやって新しい道に進んだんだし。……こういう幸せな家庭に憧れるの、普通だろ?」

 「……出………。」

 「おまえが決めたことだ。まぁ、最後は頑張れよ。」

 「あぁ……。でも、今まで通りにする予定だよ。」


 しんみりとした雰囲気になり、千春は涙が出そうになる。

 誰が悪いわけでもない。

 誰かを好きになって、そして告白して、フラれる。よくある話だし、千春だって何度も経験したことだった。


 だけれど、千春は出の恋はこれで終わってはダメな気がしてならなかった。

 これは女の勘だし、出や立夏にとっては迷惑な事なのかもしれない。

 けれど、最後なら少しぐらい足掻いてみてもいいのではないか。そんな風に千春は思った。




 「ねぇ、出。………私に考えがあるんだけど。最後なら、少し思いきったことしてみた方がいいんじゃないかな?」

 「そうか……?」

 「出は、こんなに長い間片想いをしていたんなら、結婚して一緒になりたいって夢見る相手はやっぱり立夏でしょ?」

 「…………そう、だな。」



 千春は、自分の気持ちを伝えた。

 千春が気づかないだけで、秋文は長い間自分を思ってくれていた。告白された時は、「付き合えるかなんてわからない。」と、秋文と恋人になるなんて考えられなかった。

 けれど、今となっては秋文は何よりも大切な人になっている。

 立夏ももしかしたら、そうかもしれない。

 だから、立夏が千春に言ったように「付き合ってみるのもいいんじゃない?」も、千春も思っていたのだ。



 「少し作戦を考えて、立夏に本気で出の気持ちを考えてもらおう。きっと、立夏の心も揺らぐんじゃないかな。」

 「………千春、ありがとう。やってみるよ。」



 いつもの優しい笑みに、少し照れた顔。

 出は自分の恋愛に対しては消極的だし、話す事も少ない。

 けれど、千春と秋文がすれ違っていた時、何度も助けてくれたのだ。

 今度は、出の役に立ちたい。千春は、どんどんとやる気が出てきた。




 「よし!じゃあ、立夏がお風呂から上がる前に、決めちゃいますか!」

 「あぁ、よろしく頼む。」

 「……勝手にやっててくれ。俺は酒でも飲んでるから。」

 「もう、秋文っ!」



 そんな事を言っても、やはり幼馴染みの恋の行方が心配なのか話には入らなくても、千春と出の話を聞いている旦那様を横目で見て、千春ら微笑んでしまう。

 立夏には悪いけれど、少しだけ内緒の話しをした。



 千春は、出と立夏がてを繋いで歩く背中を想像するだけで、笑顔がこぼれてきたのだった。




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