第15話「笑顔と涙の報告」
15話「笑顔と涙の報告」
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晴れて、無事に付き合う事になった出と立夏が、千春と秋文の家に報告をしに来ていた。
千春は嬉しさのあまり、目に涙を溜めていた。
「俺と立夏は、付き合う事になった。いろいろ迷惑かけてすまなかった。」
「~~~!!良かったねー、出ー!!立夏も、幸せになってね。」
「……結婚したわけじゃないんだけど。」
「それもきっとすぐに報告にくるさ。」
「………出、今付き合ってばかりなんだけど。」
「本当に上手くいくのか、この2人は。」
秋文は不安そうにしていたけれど、千春はきっと上手くいくと確信していた。
出がずっと片想いをしていた相手だ。
そして、親友としても大切にしていた人。出がそんな相手を手離すわけがなかった。
後は、立夏が逃げ出さないか、だけれど、それも心配なさそうだね……と、彼女の幸せそうに微笑む表情を見て、千春は感じとっていた。
「この4人が、それぞれ付き合うなんて……学生の頃では考えられなかったね。」
「………考えてなかったの、おまえらだけだろ。」
「………そういう事になるな。」
「しょ、しょーがないよね!若いときの好きなタイプは憧れとかあるし、ね。」
「確かにねー……憧れだったのかなぁー。」
よく考えてみれば、男性2人はそれぞれ片想いをしてくれていて、女性2人は見向きもしなかった事になる。
千春は申し訳ないなーと思いながらも、そんなにも長い時間片想いしてくれるほど、愛してくれていたのが、嬉しくもあった。
「いつか、若い子みたいにWデートしてみたいね!相手変えたりして!」
「……それは無理。」「それは………どうかな?」
「え…………。秋文と出は嫌なのー?」
千春の提案にすぐに反対したのは、男性2人だった。
少し憧れていたので、千春は残念に思ってしまう。
「なんでー?出は、私とデートするの嫌なのー?」
「そういう訳じゃないよ。立夏を秋文に渡すのが心配なだけだ。」
「なんだよ、それ。……手出すわけないだろ。」
「………何よ。私じゃ相手にならないってこと?」
「趣味は合うだろけど、1時間ぐらいでケンカになりそうだろ?」
秋文はそういうと、何故か楽しそうに笑った。それは、秋文が仲がいい男友達などに見せるあっけらかんとした、爽やかな笑みだった。
千春にはなかなか見せてくれない。きっと、千春より長い付き合いの立夏だからこそ見せる、笑顔。
千春は、それを見て少しだけ立夏が羨ましいな、と思ってしまった。
「確かにそうね。私と秋文なら、それ以上はケンカになりそうだわ。」
立夏も何かが吹っ切れたように、笑っていた。
千春は、何があったのかわからなかったけれど、立夏の悩みがなくなったように思えて、ホッと安心してしまった。
「じゃあ、私は千春とデートするから、男2人はご自由に!」
「「なんで、そうなるんだ………。」」
そんなやりとりを四季組の4人が大人になっても出来る。
その幸せを感じながら、千春は4人で楽しい時間を過ごしていた。
………けれど、それの雰囲気は1本の電話のせいで台無しになってしまう事になるのだった。
「………悪い、電話だ。」
秋文のスマホのバイブが鳴った。
秋文は、皆がいたリビングから抜け出して、廊下に向かった。
千春は、彼の表情を見て何かあったのではないかと、すぐに察知した。
出と立夏も顔には出さないものの、何かあったのだとわかっているはずだ。
3人で、先程の続きの話しをしていると、しばらくしてから秋文が深刻な顔で部屋に入ってきた。
千春は、2人に声を掛けて秋文に近寄った。
「秋文………。」
「………俺の引退の話しがマスコミに流れたはしい。もう少しで報道になりそうだ。」
「そんなっ……。」
秋文の言葉を聞いて、千春は愕然とした。
まだ、リーグ戦がスタートして半分だ。大切な時期に、引退の報道が流れてしまう。
それを考えると、千春でもよくない事がよくわかっていた。
「限られてた人しか話さないで、厳重に秘密を守っていたつもりだけど……守りが厳重なほど目立つってことだな。」
「……どうするの?」
「すぐに会見をひらくよ。」
「………わかったわ。準備しないと。それに、2人にも………。」
「あぁ、今話そう。」
秋文がゆっくりとソファに座っていた2人に近づくと、出が心配そうに「何かあったのか?」と聞いてくる。立夏は何も言わずにただ秋文を見つめていた。
千春はそっと秋文の隣に立った。
きっと、彼だって話してて悲しくなるものだとわかり、少しでも力になれれば、と千春は寄り添った。
それを秋文が視線だけで見つめ、そして口元が少しだけ微笑んだように千春は見えたので、安心した。
「こんな時に言う話しじゃないんだけど、話しを聞いてほしい。」
秋文がそういうと、2人は無言のまま頷いて、彼の話しの続きを緊張した面持ちで待っていた。
「実は………今年度でサッカーを辞める事にした。」
「……。」
「なっっ!」
出は無言のまま、そして立夏はあまりの驚きに声を出して、立ち上がってしまった。けれど、2人の顔は揃って驚愕の表情だった。
「悪いな……付き合い始めの報告に来て貰ったのに雰囲気悪くなるよな。本当は、もっと落ち着いた時期に伝えるはずだったんだけど、マスコミにバレたみたいでな……。」
「……そんなことどうでもいいよ!何よ、何で秋文がサッカー辞めちゃうの?………あんなに大好きなのに……。」
「……立夏、落ち着け。」
立夏の口調は怒っているのに、顔は泣きそうだった。それを見た瞬間、千春は我慢していた涙がこみ上げてきた。
「秋文……怪我の状態があまりよくないのか?」
「まぁ、それも原因の1つだよ。それより、体が鈍くなってきた。鍛えても鍛えても、元に戻らないんだ。」
「そうか………。」
「完璧な状態で戦えないのに、サッカーを続けていくのは辛いんだ。」
立夏のような切ない顔を見せて、自分の気持ちを話す秋文を見ていられないのか、出も下を向いてしまった。
「………そんなのダメよ!」
「立夏……。」
「少しカッコ悪くても、今までみたいで出来なくても、体引きずってでも、喘いで続けてよっっ!………サッカーあんなに好きだったじゃない。」
「……………。」
「それぐらいで、諦めないで……。」
話していくうちに、ボロボロと涙を溢して嗚咽を洩らしながら、そう訴える立夏を見て、千春も我慢出来ずに、秋文の腕を掴みながら泣いてしまった。
「悪いな……俺がもうしないって決めたんだ。」
「………バカ秋文……。」
「俺の分までお前たちに泣いて貰えてよかったよ。千春は、きっとこれから何回も泣くんだろうな。ごめんな……。」
千春の頭を優しくポンポンの撫でる秋文の顔を、千春は見ることが出来ず、頭を横に振ってそれに返事をした。
「………おまえとサッカー出来なくなるのか。寂しくなるな……。」
「そうだな。俺もそう思うよ。」
出は、泣きじゃくる立夏の肩を抱きながら、切ない顔でそう気持ちを伝えると、秋文も苦い顔で、小さく囁くようにそう言った。
その涙の会話は、しばらく続き、お互いの恋人が泣き止むまで、彼らは優しく慰めてくれていた。
千春は、秋文の引退が近づいているのを、改めて感じたのだった。
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