第1話「再びサプライズ」
1話「再びサプライズ」
「では、秋文と千春の結婚をお祝いして……」
「「乾杯ーっ!」」
4人は持っていたグラスを持って、乾杯をした。その顔は皆が笑顔だった。一人を除いては。
「立夏、出。今日は旅行に招待してくれてありがとう。」
「いいのいいの!新婚旅行にすぐに行かないって聞いたから。少しでも旅行気分を味わえればなぁーって思ってさ。」
「だったらなんでおまえらが一緒なんだよ。普通新婚旅行なら2人きりだろ。」
みんなが楽しそうにしているのに、1人納得がいかないのか、ビールを一気に飲みながら秋文はそう文句を言った。
隣に座る千春は、その発言を聞いて焦ってしまう。
「ちょっと!秋文……私は4人も楽しくていいと思うよ。」
「新婚旅行は秋文が豪華な所に連れていってくれるだろうから、まぁ今回はみんなで旅行ってことでいいだろ?」
「………お前たちが来たかっただけだろ?」
「秋文はねちねちうるさいな~。毎日2人きりなんだからいいでしょ!さぁ、ごはん食べようー!」
立夏はそういうと、テーブルに並べられた豪華な料理に箸を伸ばした。
それを見て、秋文は渋々だが箸を手に取った。千春はその様子を見て、ホッと微笑んだ。
この日、四季組の4人は温泉旅館に泊まりに来ていた。結婚式をあげた後も、すぐに新婚旅行に行けない秋文と千春のために、人気のある旅館を前々から予約していてくれたのだった。
この日だけは絶対に空けておいてと言われて、今日まで行くところも告げらせずにサプライズで旅行をプレゼントしてくれたのだ。
新婚旅行にすぐに行けなかったのは、千春自身も仕方がないことだと思っていたけれど、やはり本音では残念でもあった。
その気持ちを言わなくても理解してくれる2人の親友の思いやりが、千春は嬉しかった。
秋文も口ではあんな風に強がりを言っているけれど、本当は喜んでいると千春はわかっていた。
「それにしても、千春のドレス姿は綺麗だったねぇー。」
「ありがとう。でも、それ3か月も前の事だよー。」
「でも、本当に綺麗だったよ。」
「ありがとう、出。」
千春は、ウエディングドレスを選ぶのをきっと悩んでしまうだろうと思っていた。
けれど、千春がこんなのが着たいなぁーと言ったのを秋文が覚えていてくれ、試着をしにお店に行くと、「これがいいんじゃないか?」と秋文が選んだ物に決まった。
そのドレスの後に何着か試着をしたけれど、秋文が選んだ物に勝るものはなかったのだ。
千春の好みや、似合うものを彼はわかっていてくれるのだと、改めて実感した瞬間だった。
「秋文も白タキシード着るって聞いた時はビックリしたけど。悔しいけど、似合ってたよ。」
「当たり前だろ。現役でモデル業もやってるんだぞ。」
秋文が得意気に言いながら、お刺身をつまむ。立夏が悔しそうにしているけれど、反論は出来ないようだった。
白いタキシードは、本当によく似合っていた。王子様という雰囲気ではないが、黒髪に少し焼けた肌、そして真っ黒な瞳とは正反対な白が彼の魅力をより引き立ててくれていたのだ。
千春は横に座る秋文をちらりと見た。
今日は白いタキシードとは全く違う、浴衣姿だった。昼過ぎに到着した四季組のメンバーは、すぐに温泉に入ったのだ。
部屋に料理を運んでくれるというので、4人は浴衣のまま寛いで過ごしていた。
秋文は少し暑かったのか、胸元を大きく開けて浴衣を着ていた。温泉か、お酒のせいなのか、肌もほんのり赤い。
汗ばんだ肌と、浴衣を着ているためなのか、いつもより色気が増しているような気がして、千春はドキッとしてしまう。
視線に気がついたのか、秋文が千春の方を向いて、少し心配そうに「どうした?酔ったか?」と聞いてくれる。
千春は、自分のはしたない考えが彼にバレないように、すぐに視線を逸らした。
「だ、大丈夫だよ!まだ、少ししか飲んでないもん。」
「そうか?ならいいけど……気分悪くなったら早く言えよ。」
「うん。ありがとう。」
千春はドキドキした気持ちのまま、お酒に口をつけた。
少しだけでもいいから、秋文に触れたくなってしまった気持ちを、千春はグッと我慢していた。
食事もすすみ、4人共お酒がまわってきた頃だった。立夏が酔いに任せて問題発言をしてしまった。
「そういえば、千春がナンパされた日ね……。」
「わー!!立夏それは………。」
「ナンパ………?」
「まだ秋文に言えてなかったの~………。」
鋭い目付きになって一気に不機嫌なオーラを発する秋文の隣で、千春は縮こまってしまう。
結婚した後に立夏と食事に行った時の話だった。待ち合わせ場所で立夏を待っている時にナンパをされたのだ。「結婚してる。」と相手に伝えてもしつこく千春を誘い、手を掴まれそうになった時に立夏が助けてくれたのだった。
その話しはわざわざ秋文に伝えることでもないと思い、彼には話してなかったのだ。
が、その判断が間違えだったようだ。
必死にその時の話しをするけれど、秋文は憮然とした様子で何も言葉を発しなかった。
「………だから、何もなかったから話さなかっただけだよ?」
「ナンパされたって事は何かあっただろ。」
「ナンパはされたけど、それ以上は何もなかったってこと!」
「そんなの当たり前だろ。何かあってたまるかよ!」
「ーーーっっ!秋文のいじわるっ!」
「おまえが悪いんだろ。」
千春はフンッと顔を背けると、秋文もそっぽを向く。
そんな2人のケンカを立夏は面白そうに、出は困り顔で見つめていた。
「まぁ、些細なことでも報告すれば、秋文も安心するんだろう。嫉妬してるだけだから、千春も気にしすぎなくていいとは思うけどな。」
出の言葉に千春と秋文が反論しようとした時だった。
リリリリリーーー!!!
と、目覚まし時計の音が部屋に響いた。
千春と秋文は、突然の音に驚き、体をビクッと、させてしまった。けれども、立夏と出は全く驚いていない様子だった。
その音は立夏のスマホのアラームだったようで、立夏は「あーもう時間かぁー。」と言って、アラームの音を切った。
「え、時間って………?」
「あぁ、実は俺と立夏は日帰りなんだよ。」
「そうそう。さすがに新婚さんの夜はお邪魔になりますのでね。」
「えっ、ええぇーー!!そんな……。」
千春は真っ赤になりながら、悲鳴のような声をあげてしまう。
恥ずかしさと、この険悪なムードのまま2人きりになってしまう気まずさで、どうしていいかわからず助けを求めた。
けれども、立夏は「もう1回温泉に入ってから、電車で帰るからー!じゃあ、ごゆっくりー。」と言って荷物を持って部屋を出ていってしまう。出も心配そうにしながらも「仲直りするんだぞ。」と言い、部屋を後にした。
千春は、タイミングの悪い、親友のサプライズに困り果てて泣きそうになってしまった。
隣に座る秋文を、横目でちらりと見ると、不機嫌そうに顔を背けている彼の姿があった。
それを見て、心の中でため息をつきながらも、浴衣姿の彼に触れたいな、なんて思ってしまう自分は、彼に惚れすぎているなーと感じてしまった。
千春は、どう解決しようかと静かになった部屋でひとり考えたのだった。
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