第2話「ケンカの後の」
2話「ケンカの後の」
千春と秋文が一緒に暮らすようになって約2年。
別々に暮らしていた時よりもケンカは増えてしまった。付き合う前は、言い合いのような事は多く、いつも秋文の意地悪な言葉に千春は怒ってしまっていた。
付き合い始めてからは、秋文が千春に溺愛しており、優しくしてくれていたのは千春自身もわかっていた。
けれど、一緒に住めば一緒の時間も増えるし、生活環境の違いも多く、トラブルは増えてしまう。それは、どこの恋人も同じだろう。
ケンカは少ない方だったけれど、元々少なかった2人にとっては、ぎくしゃくした時間はとても辛かった。
そこで、決めたルールがあった。
どんなケンカをしたとしても、同じベットで眠ること。それは絶対守ると決めたのだ。
ケンカをした時は、大きなベットで相手の方を向かず、離れた場所で寝る。けれど、朝起きると何故かくっついて寝てしまっていた。
すると、どちらから「昨日はごめん。」と謝り、そしてはにかみながら微笑み合う。
そうやって、何度も仲直りをしてきたのだ。
きっと、ケンカをしない恋人なんていない。
千春はそう思っているし、きっと秋文もそうだろう。
ケンカをして仲直りする度に、「この人のお嫁さんになれてよかった。」と千春はいつも再確認できて、更に彼を好きなるのだった。
けれども、それはケンカをして仲直りをした時の話であり、ケンカ中は千春だって怒っている。
今は、「あんな事でそんなに怒らなくてもいいのに……。」と思っていた。
千春が秋文をちらりと見ると、少しイライラした様子で、残りのご飯を食べていた。
今話しても、きっとお互いに言い合いになって終わってしまうな。
そう思って、千春は小さく息を吐いて立ち上がった。
本当は早く仲直りをして、浴衣姿の彼とイチャイチャしたい、頭を撫でられて抱き締めて貰い、そしてキスをしたかった。
本当の新婚旅行ではないけれど、甘い時間を過ごしたかったのだ。
けれど、どうしても素直に謝れない自分がいやで、千春は切なくなってしまう。
目の前の彼から離れようと、その場から立ち上がった。
千春は、部屋にある露天風呂に入って気持ちを落ち着けようとしたのだ。
「………どこ行くんだよ。」
別室に移動しようとすると、秋文がちらりとこちらを見ながらそう声を掛けてきた。
千春は、秋文の表情を見るとまだ少しイラついているのがわかった。
「……お部屋の露天風呂に行くだけだよ。」
「酒飲んでるんだから、今は止めとけ。」
「大丈夫だよ。今回はそんなに飲んでないから。」
「………いいから止めとけ。」
「……行ってきます。」
千春は秋文の言葉を遮るように行き、露天風呂のドアを開けようとした。
すると、右手を秋文に掴まれてしまいドアを開けることが出来なかった。
「……離して。」
「いいから、やめとけって……。」
「嫌だよ。……せっかく立夏と出がくれた旅行なのに。少しぐらい楽しく過ごしたい。ピリピリしてるのはイヤだよ。」
「だったら、俺から避けないで話をしろよ。」
「だって、秋文が怒ってるから、少し距離を置いて落ち着こうと思ったんだよ!」
「おまえだって怒ってるだろ。」
「そうだけど……!」
あぁ、ダメだ。
こんな怒っている姿なんか、醜い。こんな気持ち我慢しなければいけない。そうすれば、甘い時間が待っているのに。
それが出来ない自分が、とても情けなくて思わず泣きそうになってしまう。
泣くのは卑怯だとわかっているのに。
「……おまえの事が心配なんだよ……。だから、泣くな。」
「泣いてないよ!」
「泣いてるだろ?」
秋文が千春の目元を優しく親指で擦ると、溜まっていた涙がぽろりと落ちた。
少しでも彼に優しくされてしまうと、気持ちが溢れてきてしまう。
千春は、ポロポロと泣きながら自分の気持ちを訴えた。
「ナンパなんてされる度に秋文に報告してたら機嫌悪くなるでしょ?……何にもないんだから、心配しないように、話さなかったのに何が悪いの?………私ってそんなに信頼ないのかな?」
「…………あぁーもう、わかった。俺が悪かったから泣くな……。」
秋文は頭を掻きながら、困り顔を浮かべて「おまえの泣き顔に弱いって言ってるだろ。」と、焦りながら言った。
「私の事、嫌いになってない?」
「そんな事で嫌いになるはずないだろ。そんなんだったら、結婚するわけない。」
「…………私もごめんなさい。秋文は心配してくれただけなのに。なるべく言うようにするからあんまり、怒らないでね。」
「………おまえさ、ひとつ聞きたいことあるんだけど。」
「なに?」
千春を落ち着かせるために、頭を撫でながら、言いにくそうに視線を外し、秋文は呟くように言葉を発した。
「そんなに沢山声掛けられるのか?」
「…………へ?」
「だから、ナンパされるのそんなに多いのかよ。」
彼が少し苛立ちながらも、心配そうに自分を見るのに、千春は少し嬉しくなってしまった。
嫉妬して自分を心配してくれる、旦那様がとても愛しいのだ。
「そんな事ないよ。たまたまだよ。」
「………ほんとかよ。」
「本当だよ!……ふふふ、心配してくれてありがとう、旦那様。」
思わず嬉しくて笑ってしまう千春を見て、恥ずかしそうに「何笑ってんだよ……。」と秋文と言って千春の髪をくしゃくしゃと激しく撫でた。
「はぁー………本当に心配してるんだからな。」
「そんな事言ったら、秋文の方が有名人だし、かっこいいから美人の女の人とかに声掛けられてないかなぁーって思ってるんだよ。」
「俺はおまえだけが好きだって言ってるだろ。昔からずっと片想いだったんだからな、奥さん。」
「っっ!!ずるいよ……。私だって秋文だけが好きだよ。」
秋文の急な甘い言葉に、千春はドキリとしてしまい、照れてしまうのを誤魔化しながら、自分からも告白してしまうと、秋文は嬉しそうに微笑んだ。
「それを聞いて安心した。」
「っっ…………。」
その笑顔がとても優しく、そして安心してニッコリと満面の笑みを見せた秋文を見た瞬間。
千春は、抱きつきたくなる衝動に駆られた。
それぐらいに、魅力的で千春の大好きな表情だった。
「……なんか、今日の秋文はいつもよりドキドキする。」
「それは千春だろ。浴衣と湯上がりのほんのり赤い肌は、色気がヤバイだろ。」
「え………そういう事じゃなくて。」
「隣に座ってる時から、おまえの色気にやられてたよ。」
「……あっ………。」
秋文に腰に腕をまわされて、そのまま引き寄せられてしまう。そして、秋文は千春の首筋に唇を落とした。
「アップにした髪から見える首筋とか、浴衣の隙間から見える肌とか……。本当にやらしい……….。」
「それは秋文の方だよ?浴衣似合いすぎて、色気がいつもより増しててドキドキしてたんだよ。」
耳元で囁かれ、千春は体を震わせながら彼に体を寄せてしまう。そうしないと立っていられなくなりそうだったのだ。
それぐらいに彼を求めて我慢していたのだろう。彼の熱を感じた瞬間に、一気に体が疼いてしまう。千春は自分でも重症だな、と思った。
「千春も、俺にドキドキしてくれてたのか?」
「………そんなの、当たり前だよ。」
「じゃあ、その浴衣姿の千春を今貰ってもいいよな?」
「………でも、食事まだだし、下げに来るかもしれないでしょ?」
「まだ、来ないさ。それに、来たら止めればいい。……それに我慢出来るのか?」
「………出来ない………。」
千春は正直に自分の気持ちを伝えると、秋文はニヤリと悪いことを考えるように笑った。
「じゃあ、このまま貰うな………。」
「そ、それは………っっー!」
露天風呂に向かう部屋の奥の窓辺で、秋文に立ったまま深いキスをされる。
角度を変えて、何度も甘い口付けをされると、そのために甘い声と水音が千春の耳を支配して、羞恥心を感じて目に涙が溜まってくる。
「俺のお嫁さんは、色気がすごくて心配になる。……誘惑するのは俺だけにしてくれよ。」
「………っ……あ、秋文………。」
「新婚旅行、絶対につれていくから……それまで、我慢してくれ。」
「うん………秋文がいるなら、私はずっと待っていられるよ。」
「………はぁー……。脱がすの勿体ないし、いつ誰か来るかわかんないから、そのままするか。」
「っっ!!」
秋文の発言に抗議をしようとするけれど、それも彼の唇で止められてしまう。
その後は立ったまま、彼からの熱い熱と色気と欲望に翻弄されながら、激しく求められた。
彼を求めていた千春の体は喜び、そして気持ちよさが頂点まで達していた。
熱にうなされながら見る秋文は、とても色っぽくて男らしくて、それだけで体がきゅんとなってしまう。
引き締まった体と彼の香りに強く抱き締められながら、千春は幸せの波にのまれてしまう。
秋文が傍にいてくれれば、甘い時間と楽しい日々と未来への希望がある。
ずっと彼の隣にいたい。
そう願いながら、切ない声で秋文の名前を呼び、立てなくなってその場に座り込み、体を絡め合い、千春は汗ばんだ彼の体をギュッと抱きしめた。
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