秋風のおとずれ
片山富嶽は手を洗った後、鏡面の自分を見た。
誰もがそうするように彼女も、いくらか腰を落として鏡の位置と顔を合わせるが、かなり窮屈な思いをせねばならない。
なにしろ二メートル二センチの
(ん~よしよし、角は生えておりませんな)
ことさら見惚れるほどの顔でもない。スフィンクスに例えられる鼻筋の通った強面は、むしろ他人に威圧すら与える。
今は〝鬼女〟に戻っていないことに満足する。自分の血が覚醒するのは、どうしても鬼の力が必要なときだけでいい。できれば永久に不必要であってほしい。
(世界中を巻き込みかねない大戦争みたいな騒ぎをやらかすなど、もう二度と御免ですからな……それも忠太くんや皆を相手に……)
羅刹女学院に転入して七か月あまり。色々なことがあった。
腕力・体力に秀でた女子の集う仏教系スクールとはあくまで表の顔、その実態は鬼女の血を引く一種の半妖たちの監視と指導を目的とした隔離施設。
血の純度に濃淡はあれど、同じ鬼女の末裔ばかりなのだから無用な争いは互いに避けるはずとは甘い判断で、富嶽の行く先には闘争が着いて回る宿命のようだ。
転入早々、女学院の伝統を守れと噛みつく〝男子排斥派〟と大立ち回りを演じ、六月にも新たな男子転校生と彼の従妹のために一肌脱いだ。
富嶽の中では、あくまで立場の弱いほうの肩を持ったに過ぎない。裏切者と呼ばれようと狭量で卑劣な同族には与することができなかったのだ。
(半六くんも重光くんも幽香さんも、かけがえのない仲間になってくれましたよ。彼らがいたおかげで私は鬼女の血に支配されるのを逃れた……)
現段階において学院の誰よりも
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