第4話 フレンドを作ろう。絶望編
トワイライト・トルーパーズを始めてから、そろそろ二週間が経とうとしていた。毎日のようにログインをしては、冒険を行う日々。
そして僕は一つの壁にぶつかった。
このゲーム内には星1~5までの難易度が存在する。星2までなら何とか一人で対処できたのだが、星3から一気に敵が強くなる。ワールドマップにいるレベル40以上の敵はそれこそ、星3以上の敵である。ただ、雑魚敵が一体とかならばまだ何とかなるが、クエストダンジョンとなると、途中で回復アイテムも尽き、クリアまでもっていけない。
そうなるとレアアイテムが手に入らず、強くもなれない。
もちろん、レベルを上げることで強くなることもできるのだが、レベル30以上ともなると、レベルがちょっとやそっとでは上がらなくなってしまう。
それこそ、星2のダンジョンクエストでちょっとずつレベルを上げることしかできずにいた。つまりここ数日、家に帰っては同じダンジョンをひたすら繰り返していたのだ。その間に違う冒険職を使ってもみたが、一番しっくりきたのはやはりシーフだったのだが、それでも同じことの繰り返しは飽きる。
クエストダンジョン以外にも、突発的に行われる防衛クエストでもレアアイテムを得ることはできる。むしろ、難易度の高いものはそっちのほうがレアアイテムの可能性は高いらしい。
しかし防衛クエストは他のプレイヤーと協力して行う、最大20人参加のレイドクエストだ。それこそ、他の人に迷惑をかけてしまうかもしれない。
はっきり言って、顔も姿も、性別すらもわからない相手と接するのは怖い。慣れていない僕にとって、他のプレイヤーに関わるのは、誰かと向かい合って話すよりも怖く感じる。
とりあえず、防衛クエストに関しては、参加できる難易度が選べる。なので、自分に合った難易度のクエストを一人で挑戦してみたが、レイド向けのクエストだけあって、一人で挑戦するのは現実的ではない。
星2の実力になった今、星1の難易度ならばなんとかクリアできるようにはなれたけれど、星1の防衛クエで得られるものは、結局どんなに強くとも、星2で使える武器くらいだ。さらに、星2の防衛クエストになると、敵の体力や攻撃力だけでなく、挙動も変わっており、僕一人ではクリアするのは無理があった。
「で、秋月くんのボッチは継続中と」
僕の話を聞いた新谷さんの言葉に、僕はバツの悪いをして頷くことしかできない。
「……まぁね」
「適当に防衛クエに混ざって、レアアイテム取れば、少しは楽になるって」
「でも、他の人の迷惑にならない?」
「んー。……まぁ、よっぽど舐めたプレイしたら、そりゃ迷惑だけど、一生懸命やっていれば大丈夫じゃない? 基本、装備がどうこうとか文句を言ってくるのは、星4とか5くらいの難易度からだから」
新谷さんは少し呆れたように説明してくれた。
基本的に新谷さんは、ゲームのアドバイスはしない。ゲームの中で人に聞いたりすることで交流が生まれるのだから、その芽をつぶしたくないというのが、新谷さんの考えのようだ。
……迷惑かけたくないという僕の真逆の考えだ。
それでも今回教えてくれたのは、一向に進まない僕の状況に業を煮やしたのだろう。
「んー。じゃあ、今度行ってみるよ。防衛クエ。……怖いけど」
「怖くないってば。……でも、今のままだと行き詰るのは変わらないよ?」
「……むぅ」
「オンラインゲームなんだから人と関わらなきゃ。……最初は怖いかもだけど、関わらなきゃオフラインゲームと変わらないでしょ?」
「……まぁ、そうだけど」
僕としても人と関わりたくて、オンラインゲームを始めたのだ。なのに、今は全く関われていない。このままでいいはずもなかった。
「勇気を出してギルドに入ってみたほうがいいよ。中には初心者を歓迎しているギルドもあるから。……中には入れるだけ入れて、新人を放置するようなダメなギルドもあるけどね」
「ふむぅ。……まぁ、頑張ってみるよ」
そうは言ったものの、いきなりギルドに入るというのはハードルが高い気がする。
ギルドの中にはきっと、友達同士の輪ができているはずだ。その中に入りずらいというのは、今の僕の学校での状況を見ればわかる。そんな中に入っていけるのなら、僕はボッチにはなっていない。
それでも、何か行動しなければ今のままと変わらないのも事実。
ということで、僕はフレンドを作ろうと思った。
このゲームでは自身のキャラクターの頭上に、名前が表示されているのだが、その名前の下にフリーメッセージを書き込むことができる。
僕はそこに、フレンド募集と書き込んだ。
そうすれば周りの人は、僕がフレンドを募集していることがわかる。つまり、話しかけるのが怖いから、話しかけてもらうという寸法だ。
話しかけられれば、僕だって無視はしない。
さらに言えば、チャットで文章を書き込む時間がある分、どう反応していいかも考えられる心の余裕だってあるはずだ。
クラスメイトに対して緊張し、どうもと素っ気ない対応を咄嗟にしてしまう僕とはおさらばできるはず。
僕はドキドキしながらも、フレンド募集を表示しつつ歩き回った。
そう、歩き回ったのだ。
しかし三日ほど経った今、……話しかけられることはなかった。
……え? 皆、友達とか必要ないの?
「そんなの、他の人だって話しかけるの怖いに決まっているでしょ? 向こうだって秋月くんの情報何もないんだから、もしかしたらフレになってみたら地雷みたいな人かもしれないって、警戒くらいするでしょ。誰だって?」
相談すると新谷さんに呆れたように言われた。
なるほど、確かにその通りだ。
例えフレンド募集と書かれたキャラが僕の目の前にいようと、僕は怖くて声をかけられないだろう。どんな人かわからないし、僕が初心者であることにキレるような人の可能性だって十分にあり得るのだから。
それは僕以外だって怖いはずだ。
「他の人はどういうので判断しているのかな?」
「やっぱり、大きいのは冒険者カードかな」
「冒険者カード?」
もちろんその存在は知っている。自身のプロフィールが自由に書けるカードである。そして、それは見ようと思えば他の人のも見えるのだ。しかし、自由に書けるからこそ、何を書いていいのかわからずに放置していた。
「うん。冒険者カードを見て判断することが多いかなぁ。その人がどういう人かを。だから冒険者カードを書いている人のほうが判断しやすよね」
「ふんふん。つまり、どういうカードが好まれるのかな?」
僕の問いに、新谷さんは思い出すように考える。
「んー。シンプルでいいと思うけどね。変に書きすぎていると、地雷だと思われるし」
「そうなの?」
「自分本位な奴って思われちゃうんだよね。やっぱ人間関係なんだし、自分のことばっかとか、嫌われるんだよ」
「……まぁ、そうだね」
「ああ、あと、あれも気を付けたほうがいいって言うね」
「あれ?」
「職業毎にレベルを書いている人とか、ソロで何かをクリアしましたとか、そういうことを書いている人」
「そうなの?」
「うん。そういう人は他の人の装備とかにも文句言いがちだからね」
自分はちゃんとやっている。ということを表しているということなのだろう。そして、自分がちゃんとやっているだけに、相手にもそれを求めてしまうということなのかもしれない。
「それは嫌だね」
「とはいえ全員が全員、悪い人じゃないよ。そういう書き方をしていても、いい人だって確かにいるから。正直、実際に話してみないとわからないよね」
新谷さんはそう言ってけらけらと笑った。
ある程度、判断基準としてあるのかもしれないけれど、それも絶対ではないということなのだろう。
実際に関わってみないとわからない。
それは結局、向こう側にいるのは、規則通り動き、攻略法のあるAIキャラではなく、様々な個性を持った人だということを意味しているのだろう。
とりあえず、新谷さんの言う通り、僕は冒険者カードに書き込むことにした。書き込みすぎても地雷だと思われるということなので、僕はシンプルに、今の状況を書くことにした。
『はじめたばかりの初心者です。
ソロで頑張っていましたが、限界が……。
折角のオンラインゲームなので交流してみたいです。
ゲームやアニメが好きなので、そういう話で盛り上がれたらと思っています』
とりあえず、こんな感じで書いてみた。
自分が書いてみると他の人はどんなことを書いているのかも気になるので、他の人の冒険者カードを覗いてみることが増えた。
書いている人もいれば、書いてない人もいる。
本当にシンプルにしか書いてない人や、めちゃくちゃ書き込んでいる人もいるし、新谷さんの言っていたような書き方をしている人もいる。
フレンド募集とこの中に書き込んでいる人もいれば、フレンドは募集しているけど、ギルドに入る気はないと書いている人もいる。
本当に様々だ。
というか、フレンドもギルドも勧誘しないでって人は、なんでオンラインゲームをしているんだろう?
まぁ、ほんとに色んな人がいるのだろう。
しかしこうしてみると、フレンドを募集している人をかなりいる。試しにフレンド申請をしてみようか?
そう考えてみたけど、結局、僕にそんな度胸はなかった。どうしたところで怖いという気持ちが先に立ってしまう。
今日も結局、クエストをしただけで終わってしまう。新谷さんに言われた通り、防衛クエに参加するようになって、少しは行ける場所が広がった。ストーリーも進んだ。
そのことは素直に嬉しかったし楽しかったけれど、しかし結局、根本的なところは解決していない。また近いうち、同じ悩みにぶち当たるのは目に見えている。
もう何週間か続けて何もなければ、やめようかな。
まさかゲームの中でもボッチを再確認するだなんて思いもしなかった。
そんなことを思っていたら、何か知らせが来た。
「何だろ?」
そう思ってメニュー画面を開くと、見慣れぬ場所にチェックマーク付いている。見ればmフレンド申請が来ていた。
「やばいやばいやばいやばい……」
僕のテンションが一気に上がる。
申請を受け入れるかどうかどうか問われているが、もちろん、申請を受け入れるに決まっている。やっと、できた繋がりだ。
するとメールが飛んできた。
『よろしくお願いします』
とても簡素な文だったけれど、それでも僕には十分に嬉しかった。
『フレンド申請ありがとうございます。
初心者ですがよろしくお願いします』
ゲームパットで慣れないながらも一生懸命書き込んで、送り返す。
ドキドキするし、ワクワクもする。これからやっと、僕のオンラインが始まるんだ。
……そう思っていた。
しかし、待てども待てども、それ以上の返事はなかった。
一時間ほど経ち、自分から送ることを思い立つ。というか、自分が完全に受け身になっていたことに思い至る。
例えばクエストに一緒に行きませんか? とか送れば良かったのだ。そうすれば、一緒にクエストに行く流れになっていたかもしれない。……たぶん。
しかし、ここに来て、一時間放置してしまったという事実が重くのしかかる。
いきなり誘ったりしたら嫌に思ったりしないだろうか? さっきまでは余裕があったかもしれないけれど、今は違うことをして忙しい可能性だってある。何より相手が、初心者なのかどうかすら僕にはわからないのだ。
何の反応も示さない僕に、もう嫌気がさしている可能性だってある。
考えれば考えるほど、嫌な想像ばかりが浮かんでくる。
そうこうしているうちに、フレンドになった人はログアウトしてしまっていた。
時間が経てば経つほど、気まずく、話しかけにくくなる。
そんな気分だ。
こうして僕は結局、初めてフレンドとなった人とは話すことはなかった。
オンラインゲームをはじめました。 西原 良 @ninota
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