第3話 それは冒険のチュートリアル

 キャラ作成が終わると物語が始まる。

 神々と魔神たちの戦争があり、神々の終焉の地と呼ばれるトワイライト大陸。そこが冒険の舞台である。

 他大陸と繋がりのある港に築かれた城塞都市を中心に、未開の地であり多くの神々の遺跡が残っているというこの大陸で、多くの冒険者が探索を行っている。

 町の中心人物は、姫巫女アスリア。彼女によって都市を守る結界が維持されているのだそうだ。

 めっちゃ距離を縮めてくるストーリーキャラ、アルブという少年にそう説明された。アルブは情報通を自称する新米冒険者で、チュートリアルはこいつと共に行うようだ。

「一緒に冒険行こうぜ」

 と調子のいいことを言われ、僕はそれについていく。

 白く巨大な尖塔が並ぶ大きな城を中心に広がる町並みは、欧州の洗練された街並みを彷彿とさせた。……まぁ、行ったことないんどね。

 歩いている道すがら、ショップについての説明などをされる。実際に店にアクセスしてみると、武器の強化の仕方など、更なる詳細説明がされる。しかし、売っている武器は大して強くなさそうだ。強い武器は拾うのが基本らしい。後は他のプレイヤーに貰うか……。

 町を歩いているとかなりの数のキャラがいるのがわかる。おそらく名前の横にレベル表記されているのがオンラインプレイヤーのキャラクターなのだろう。

 とりあえず町の外に出ると、そこら辺に魔物はうろうろしているらしい。

 このゲームはオープンワールドのようなワールドマップと、クエスト用のダンションマップの二つに分かれているらしい。

 オープンワールドでは時折、圧倒的に強い敵もうろついているらしく、夜にはその遭遇率も上がるという。ワールドマップでは倒したキャラにしか経験値が入らず、パーティーを組んでいれば経験値は共有されるらしい。

 他の関わりのないプレイヤーが倒した経験値を、傍観だけで不正に取得しないための、いわゆる寄生行為の対策なのかもしれない。

 ワールドマップでのアルブとの戦闘は、町を出るとすぐに行われることになった。

 最初の敵はワイルドウルフという名前で、見た目は角の生えた狼。一番弱い敵なのだろう。名前の横にレベル2と表記されている。

 ジャストアタック、ジャストガード、ステップ回避、そしてコマンドアーツの説明が行われる。コマンドアーツは複数あり、クラスごとに違うようだが、今覚えているのは一つだけだ。とりあえず、ワイルドウルフを倒している間に、基本的な戦い方はわかったと思う。

 そう思っていたら、アルブが叫ぶ。

「うわぁっ⁉ 大型モンスターだ‼」

 見れば巨大なティラノサウルスのような大きなモンスターがこちらに向かってきていた。

「やばいよ! あれはボルゲーノだ。なんでこんなところに。今の俺らじゃ勝てるわけないよ。逃げよう‼」

 そう言いながら逃げ出そうとするが、足をもつれさせて転ぶアルブ。腰を抜かしてしまったのか、立ち上がることもできずにいる。それを助けるように立ちはだかる僕。

 わぁ、子供の姿なのにカッコイイ。

 とか思ったけど、どうやら戦闘になるようだ。

 レベル30のボルゲーノ。レベル1しかない僕に勝てるとも思えない。ただ、ボルゲーノの攻撃は大振りなので、避けるのはそこまで苦ではない。とはいえ操作に慣れているわけでもないので、ちょこちょこ喰らうし、回復手段も少ない。こっちの攻撃もほとんど通じない。

 これは完全に勝てない戦いだと思うのだが……。

 しばらく戦っているとイベントが発生した。

 吹き飛ばされる僕。

 まさにぐったりモード。何とか起き上がろうとするが、気を失ったように倒れる。

 ボルゲーノも勝利を確信したのだろう。

 腰を抜かして動けずにいるアルブのほうへと向かう。少しでも動いているほうを先に仕留めようと考えたのだろう。

 その背後で僕がゆらりと立ち上がる。

 瞳のあたりが赤々と輝き、焦点が定まっていないような印象。

 次の瞬間、僕の腕も赤々と光り輝き、その腕を振るって赤い衝撃波をとばす。ボルゲーノは吹き飛ばされ消滅した。

 そして僕は今度こそ、気を失って倒れたのだった。

 

 演出としてカッコ良かった。主人公の持つ謎の力も気になってくる。

 なんというか、オンラインゲームはオンラインがメインだからこそ、ストーリーにはあまり力をいれていないのではないかと思っていたのだけど、全然そんなことないという印象だ。これが基本無料とか、恐るべしオンラインゲーム。

 目を覚ますと冒険者用の寄宿舎に移動しているようだ。

 アルブがどうやら力について言いふらしているらしく、期待の新人として注目されていた。

 気の良さそうな先輩キャラ、クロードとルミナが現れ、僕の不思議な力について聞かれる。もちろんわからないので僕は首を傾げる。

 ストーリー上ではどうやら主人公は話さないようだ。勝手に周りが主人公の仕草で判断して、ストーリーが進んでいく。

 僕にはそれも好感が持てた。

 今のゲームはよく、主人公が喋るけれど、僕にとってゲームを楽しむ基準はまず、主人公が好きになれるかどうかだ。好きになれない主人公がどんなに活躍しようと、それは面白くない。

 だから喋らない主人公のほうが感情移入しやすく、没入感があり、僕は好きなのだ。……まぁ、僕の個人的な感想だけど。

 とりあえず、先輩たちとの話が進んでいくと、秘められた力があるのだなということに落ち着き、一緒にクエストに行ってみようという話になった。

 これから自由行動もできるようだが、とりあえず勝手がわからないので、クロードとルミナの下へ行き、クエストを進行する。

 クエストダンジョンは自動生成されるようで、ダンジョンは毎回ルートが変わる仕組みのようだ。そうして奥まで行ってボスを倒すのがクエストなのだろう。

 敵は最初のダンジョンだけあってそこまで強くない。グルーガと呼ばれる猿のような鬼。けれどしっかり避けてないとうっかり死にそうだ。

 少し不満を言うとするなら、ダンジョンの広さに比べ、走る速度がちょっと遅い気もする。けれど、アクションゲームとしてはしっかりしているし、オンラインという部分を抜いても、今のところ十分に面白い。新谷さんが薦める理由もわかるというものだ。

 とりあえず、奥まで辿り着いた僕らはボス戦となる。

「こいつがこの洞窟に棲みついた、グルーガのボスだ」

「道中に出てきたグルーガとは比較にならないくらい強いから気を付けて」

 クロードとルミナがそれぞれ注意を促してくる。

 ボスグルーガというそのままの名前のボスだが、普通のグルーガの五倍以上はある。動きはダイナミックで、最初に戦ったボス、ボルゲーノよりも避けにくい。

 それでも今度はちゃんと攻撃が通じる。

 ルミナも回復魔法を行ってくれるので、それを活かせば死ぬ可能性も少ない。

 しばらく戦うと、グルーガボスの討伐に成功する。

「やるじゃねぇか」

「うん。新人とは思えないよぉ」

 二人の褒め言葉を貰いながら、ボスが落とした大きな宝箱を調べる。すると、今の武器よりもレアリティの高い武器が手に入る。……武器種は大剣。

 今の冒険職では使えない武器だった。まぁ、そこら辺は完全に運なのだろう。

 クエストクリアで経験値も入り、レベルが上がる。レベルが上がるとステータスとスキルポイントが得られるようだ。スキルポイントは冒険職特有のスキルを覚えるのに必要なものらしい。

 ダンジョンをクリアすると、町までの転移ゲートも現れ、僕らは町へと戻る。

 町へと戻ると、クロードとルミナに認められ、彼らのパートナーカードを貰う。これを貰うことで、いつでもパーティーメンバーとして呼ぶことができるようだ。

 そして町中のマップに、ストーリークエストとサブクエストが表示される。

 これから本格的に、自由行動できるようだ。

「さて、どうしたものかな」

 僕のレベルはまだ四しかない。周りを見れば、六十から八十のレベル帯がゴロゴロしている。もちろん僕に近いレベルのキャラもいるが、ほんとの初心者なのかもわからない。クラスによってもレベルが変わってしまうのだから。

 しかし、こういうオンラインゲームが初めてな僕としては、色々と緊張する。そこら辺にいるキャラクターの向こう側には、知らない人がいるのだ。

 何かすることで不評を買い、暴言を吐かれるかもしれない。

 僕はそれが怖かった。

 だから自分だけの力で、できる範囲まで進めようと思った。

 人に迷惑をかけたくなかったから。暴言を吐かれるのが怖かったから。

 だから僕は考える。

 足手まといにならなくなってから人と関わるべきだと。

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