第2話 はじめる前に調べることが多い。

 まず、パソコンで本格的なゲームをやろうとすると、初心者の前に立ちはだかるのはそのスペックだ。一般家庭で使っているようなパソコンでは性能が足りないことがほとんどで、性能の高いCPUとグラフィックボードが必要とのこと。

 っていうか、グラフィックボードってなに? とすら思った僕ですよ。家庭用のパソコンだと、付いていないことがおおいと、新谷さんが言ってた。

 しかしだ。それらの条件を満たしたパソコンとなると、めちゃくちゃ高い。

 普通に十万以上の金額となる。

 高校終わりにバイトばかりしている僕だから、普通の高校生に比べてお金は持っているほうだとは思う。でも、十万以上となるとかなりきつい。

 というか、そんな高い買い物をゲームのために買いましたとか言ったら、親に殺されそうだし。

 そんな中、新谷さんが教えてくれたのは、パソコンでも家庭用ゲーム機でもできるオンラインゲームだった。

 もちろん、最新型のゲーム機が必要だけれども、それでも値段としては三万ほど、十万以上と聞いた後では、断然安く思えるし、元々ゲームは好きなので、そのゲーム機は持っていた。

 なら、それをやろうと決心。

 帰って早速ダウンロード。

 このダウンロード時間がかなり長い。一時間以上はかかりそうで、僕はその間に、どんなゲームか、ネット情報を探ってみることにした。

 新谷さんがおすすめしてくれたのは、トワイライト・トルーパーズ。すでに三年程続いているオンラインゲームで、まだまだ続くだろうと、新谷さんは言っていた。

 それはアクライン大陸を舞台にした冒険者ギルドの話である。そこは発見されたばかりの大陸であり、その地には様々な神々の遺跡が残っており、神々の遺産を発掘しながら、神々が何故この地を去ったのかを探るというのが、このゲームの目的らしい。

 襲い掛かってくるのは大陸にすむ魔物と、冒険を阻む謎の組織。それが僕らの敵なのだという。

 基本は最大四人パーティーで自動生成されたマップを探索するアクションRPG。また、町を襲う大型レイドもあり、それは最大二十人で戦うようだ。

 選べる種族は、人間、エルフ、ドワーフ、魔族の四つ。一応種族によってステータスに変化はあるが、そこまで大きな違いがあるわけでもなく、ほぼ見た目だけで選んでいいようだ。

 むしろ重要なのは、職業らしい。

 近接攻撃を得意としたウォーリアー。防御特化のナイト。素早い近・中距離攻撃を得意としたシーフ。遠距離の得意なレンジャー。攻撃魔法が得意なソーサラー。支援魔法の得意なエンチャンター。人形を操るパペットマスターなどがあるようだ。ただ、職業はいつでも変えられるらしく、そこは色々試しながら決めようと思う。

 そして、ゲームの中では仲のいい人たちとギルドを組むこともでき、周囲チャット、ギルドチャット、パーティーチャット、個人チャットというように、チャットを使い分けることもできるとのこと。

 ギルド。

 それは僕としては一番重要なものだ。

 ソシャゲにしても、チームに入ることで友達ができたのだから。

 というか、ギルドって何するところなんだろ?

 僕はそんなことを考え、ギルドの情報を探ってみるけれど、何をしているのか、そういう情報は全然見つからなかった。見つかるのは募集してますってものくらいだった。

 あとは、ゲーム公式サイトにあるギルドの説明くらい。

 ギルドでは守護精霊というものがあり、ギルドポイントを捧げることで、色々な支援効果を与えてくれたり、守護精霊を成長させることができるらしい。またギルドポイントで様々な施設を発展させていけるらしい。

 日曜日には、参加自由のギルド戦もあるようだ。

 ギルド戦はギルドマスターが倒されたら負けの攻城戦。

 面白そうではある。けれどある程度のレベル調節などはしてくれるとのことだが、それでもギルドメンバーの強さや数が重要みたいだ。素人が楽しむにはちょっとハードルが高そう。

「おっと、ダウンロードが終わった」

 ゲーム画面が起動し、オープニングが始まる。数々の冒険者が協力し、色々な場所を旅し、魔物を倒していく。

 それは王道ファンタジーという感じでとてもわくわくさせられるオープニングだった。音楽も壮大なファンタジー感があって、僕はとても好きだった。

 まぁ、色々と調べた結果、やってみるのが一番だという結論が出た。調べると、装備の最低限すらできてないとか、戦い方すらわかってないのに星5帯にきているとか、色々とディスるような言葉がでてくるけれど、このゲームに触れていない僕では、その装備の最低限とか戦い方とかを想像することすらできない。というか、専門用語からしてわからんしね。

 むしろそういうのを見ていると、やる前から心が折れそうだ。

 ということで、とりあえずやってみることが大事だろう。そう思ったら、思わぬ難関に出くわした。

 オープニングが終わり、いざ始めようとしたら、次はゲーム用のID登録が投げかけられる。まぁ、メールアドレスは携帯のを利用する。しかしID名はどうしようか。

 というかID名って何? キャラ名?

 とりあえず、キャラ名として考えたほうがいいのかな?

 ……いくつか思いついたものはある。元々僕がソシャゲでやっていたキャラ名。昔見ていた好きなアニメのキャラ名だ。

 これでいいか。そう思って打ち込んだら、見事に弾かれた。……そのID名は既に使われています。

 マジかい。好きなアニメだったけど、主人公は有名で恥ずかしかったから端役の名前から取ったんだよ? それでも名前として使っている人いるのか。

 他の名前……。

 思い浮かぶのは漫画やゲームの名前たち。しかし見事に弾かれる。……どんだけ多いんだよ。かといって、愛着の持てない名前は嫌だしなぁ。

 次は名前から考えようか。

 秋月春也。……秋を活かす? それとも春か……。

 秋……アッキーとか? まぁ、弾かれるよね。……うぅん。春巻? 別に春巻き好きじゃないしなぁ。折角季節の二つ入っているし四季とか。やっぱ弾かれる……。いや、四季じゃなくて二季なんてどうだろう? 僕の名前の中の季節は二つだしね。……お、弾かれない。二季。ニキかぁ。

 悪くないかも。

 よし、ID名は決まった。次は何だいな?

 と思ったら、今度は所属する島を選ぶらしい。ギルド?

 とりあえずネットで調べてみる。どうやら所属するサーバーのことのようだ。基本的に他の島の人間とは交流できない。できるのは同じサーバーに所属できる人だけらしい。

「ほむん。結構、これ選ぶのも大事じゃない?」

 そう思って今度は島の特徴を検索。って調べること多いな。しかし直感で行くほど勇気が持てないかなしみ。

 一応、いくつかあるまとめサイトには島の特徴が書かれている。ガチ勢が多いとか、外人が多いとか、変態が多いとか。……変態ってなんだよ。

 ガチ勢はゲームの腕前が最も大切にしているらしく、強さだけをひたすら求めているようだ。それ故にギスギスもし易いんだとか。

 うん、ガチ勢は怖いなぁ。外人も言葉通じないとか無理だし。……変態。

 まぁ、そんな三択じゃないんだけどね。比較的平和だと言われている島も多い。とはいえ、まとめサイトによって、その評価は違ったりもするので、結局、島に入るまではわからないようだ。

 とりあえず、僕はガチ勢を狙うわけでもないので、比較的平和だという島を選ぶことにした。

 さぁ、次だ次。

 ここでキャラクターの性別と種族選択になった。

 とりあえず、自分と同じ性別として、男を選択。なんか、女キャラを作るのは気恥ずかしい。自分の趣味趣向を駄々洩れにしそうで。

 こういう子が好みなんだね、とか言われたら恥ずかしくて憤死しそうだし。そういうことができるのなら、学校でももっとはっちゃけられる。

 次は職業だ。基本、突っ込みたい脳筋プレイの多い僕としては、なんだろうか?

 能力面でいえば、打撃攻撃と防御、HPの優れたドワーフになるわけだけど、結局、基礎ステータスは、誤差程度の差しか生まれないというのだから、見た目で選ぶべきだろう。

 ……ということは、魔族かな?

 見た目的な特徴から言えば、まぁ、人間に角があり、耳が尖っているってくらいの違いだ。でも、なんだか見た目がかっこよすぎる。これで弱いとか、めっちゃかっこ悪くない?

 ……むぅ。

 考えに考えた結果、僕はドワーフにすることにした。

 ドワーフと言っても、低身長、筋肉ダルマの髭モジャというわけではない。いや、そうすることももちろんできるのだけど。

 ただ、低身長という特徴は確かにあるけれど、キャラメイクでほっそりさせることもできるし、髭の有無、顔だっていくらでも変えられる。ただの子供のようにすることだってできるのだ。

 僕は悩みながら、子供のような見た目のドワーフにした。

 そして、最初の職業選択。

 これは元々調べていたので、迷うことがなかったかと言われたら、そうでもなかった。実際に動いている見本例みたいのが隣に映し出されるのだが、最初にやろうと思っていたナイトは、剣の振りが他のクラスに比べると遅い。

 ……動くの遅いってもやもやするしなぁ。

 迷いに迷った結果、僕はシーフにすることにした。一撃は弱いかもしれないけれど、手数で押すってスタンスが魅力的に感じたのだ。

「よぉし。これで始まるのかなぁ」

 そう思ったとき、キャラクター名を記入するように言われる。

「……あれ? IDネームってキャラ名はじゃなかったの? ふむぅ」

 どうやら違ったようだ。とはいえ、キャラ名のつもりで名付けたIDネーム。今更変える気もない。とりあえずIDネームとは差別化するつもりで、カタカナにすることにした。

 ニキ。

 それが僕の作った、キャラクターの名前となった。

 そうして僕は、ドワーフとなって、冒険の大地へと降り立った。

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