オンラインゲームをはじめました。
西原 良
第1話 終了のお知らせ(ソシャゲが)
僕はあるソシャゲにはまっていた。別段、特にそのゲームが面白かったわけじゃない。むしろ、上に行けば行くほど、使えるキャラ、やることが決まっていって、作業的なノリがつよくなり、正直あんまり面白いゲームだとは思わなかった。ストーリーは気になったけどね。
なら、僕は何にはまっていたか?
それは、人との関わりだ。
そのゲームは、チーム同士での戦いが一つの売りだった。しかしそれこそ、使えるキャラや作戦はどのチームも似通っており、どれだけ参戦者を揃えられるかで勝負が決まってしまう。
やることが決まっている。それはつまらなそうに思えるかもしれない。でも、作戦通りに行動するには、チームの人たちで話し合い、役割を決める必要がある。
僕はそれが好きだった。
時に雑談を交えながら、こうすればもっとロスが減るんじゃないかと話し合う。
顔も知らないチームメンバー。
でも、皆が皆、同じ目標に向かって頑張っている。
それこそ僕らは、本当に仲間だったのだ。
高校に入学し、早くも二か月が経った。
この二か月を振り返ってみよう。
……大失敗でした。
いや、勉強の成績がどうのじゃないよ? 苦手な英語は苦手ままだったけど、比較的得意な数学はちゃんとできていたと思う。
そう。何が大失敗かというと、友達? なにそれ? 美味しいの?状態に陥ったことだ。つまり、ボッチと化した。
原因を考えてみよう。
まず高校に、中学の知り合いが一人もいなかったのが大きい。つまり、周り全員知らない人。それに比べ、周りは中学からの知り合いが多いようで、入学した初日からすでに、仲のいいグループが出来上がっていた。
この時点で難易度爆上がり状態。
次の原因は、僕の人見知り。
というか、高校入学するまで、人見知りだという自覚がなかったのがまず痛かった。わかっていれば、入学前に対策が立てられたかもしれない。
小学校、中学校と、周りには友達がいる状況だった。だから特に緊張することなく、他の人とも話すことができ、友達の輪を広げることができた。でも、一人でしようとすると途端にダメになる。
まず、何を話していいかわからない。
だって、僕はその人が何を好きなのか知らないのだ。そして僕の好きな話で喜んでくれるかもわからない。そう思うと、途端に喋ることができなくなる。
話しかけてくれる優しい人もいた。でも、僕は極度に緊張し、素っ気ない態度しかとれなかった。そして申し訳ない気持ちになり、ますます話せなくなった。
まさに悪循環。
「で、秋月くんは結局友達ができなかったと」
バイトの先輩である新谷さんにからかわれるように言われた。
僕が働いているのは叔父が趣味で経営している喫茶店。
人見知り克服とお金のために始めたアルバイトではあったけれど、最初は接客なんてできるのか不安だった。けれど仕事となると、お客さんが求めていることも、やることも、だいたい決まっている。なので正直、人見知りとかあんまり関係ないということがわかって、案外うまくできている。
それに仕事先の人たちも優しく、仕事を教わるときには必ず話さなければいけないので、その間に慣れることができたのも大きい。だから正直、学校よりもバイト先のほうが楽しくのびのびできている僕がいた。
バイトの人数は多くない。まぁ、叔父さんが趣味でやっているようなものだし、本当は最初、バイトを雇う気もなかったらしい。それでも、思った以上に繁盛してしまって、叔父さん一人では手が回らなくなったとかで、雇いだしたのだとか。
従業員は叔父さんと、パートの仁科さん、バイトの新谷さんと僕の四人だ。
パートの仁科さんは主婦で、いつもニコニコとした優しいおばちゃんといった感じの人だ。僕や新谷さんをよく子供扱いするけれど、嫌みがなくていい人だ。
そして、新谷さんは大学生になったばかりの女子大生だ。綺麗な人なんだけど、結構オタクで、オタク趣味の話をよくされる。僕もそういう話は好きなので喜んで聞いていた。
バイト先で一番仲がいいのが新谷さんだろう。大きめの赤縁メガネから覗く、くりくりとした可愛らしい瞳をいたずらっぽく細めながら見つめてくる。
「……まぁね。僕は友達を作れないんじゃない。作らないんだ」
皿を洗いながら僕はぶっきらぼうに答える。今はお客が途切れて、新谷さんは暇なようだ。僕の答えに、より一層、楽しそうににやにやした顔で近づいてくる。
「本心は?」
「超ほしい」
「あはは。……んと、他にボッチの子とかいないの? そういう子と仲良くなればいいじゃん。ボッチ仲間。あはは、ボッチなのに仲間って」
何か自分で言って、ツボったようだ。コロコロと楽しそうに笑う。
「僕以外のボッチねぇ」
一番最初に思い浮かんだのは、窓際の席に座る彼女の姿。
同じクラスの藍野さん。
凛として、学年一なんじゃないかってくらい綺麗で、神秘的な雰囲気がある。まぁ、オタクらしい僕の勝手な印象だけど……。
でも、綺麗なのはほんとで、彼女と仲良くしようとした人は、女子も男子も多かった。僕だったらしどろもどろになって相手を引かせそうなその状況で、彼女はとても凛とした態度で、接していた。
「私はあなた達と遊んでいる暇なんてない」
っていう、拒絶の言葉だったのがまずかったけれど。これは皆を引かせたし怒らせた。曰く人を見下している。お高くとまった性格ブス。
いじめに発展してもおかしくない状況で、彼女はあくまでも自分の態度を変えることなく、凛とした態度を貫いている。それはボッチとか、孤独というよりも、孤高という感じで、ある意味憧れてしまう。
……まぁ、でも、仲良くなれる気がしない。住む世界が違う気がする。
「はぁ、無理だね」
「暗いねぇ。どっかの偉い人は言ったよ。少年よ大志を抱けって。まぁ、大きな志なんて疲れるから嫌だけど、ちっちゃな志くらいは持ちなさいな。俺はこの戦いが終わったら、友達を作るんだ。……的な?」
「……それ、なんて死亡フラグ?」
「んふふ。フラグなんてへし折りなさいな。って、ほんとに元気ないね」
「……まぁね」
「友達できない以外に何かあったの?」
「いやね。僕がやっていたソシャゲが今度、サービス終了するんだよ。それがわかってから、せっかく仲良くなったギルドメンバー来なくなっちゃってね。僕の心の支えが……」
「そかそかぁ。ゲームでもボッチになりそうなのかぁ。その仲のいい人たちと他のゲームに移住とかは?」
「いや、そういう話にはならなかったの。……やっぱ、ネットの関係なんて希薄なのかなぁ」
「まぁ、ソシャゲだからね。関わるって言っても、限界あるんでしょ。仕事の合間にやっているだけって人多いし」
「……むぅ」
折角ソシャゲを通して、人とつながることの楽しさに気づいたのに、所詮ゲームだし、上辺だけの関係なのかもしれない。それがとても寂しく感じた。本当の仲間だと思っていたのに……。
そんな僕の気持ちを察したのか、新谷さんは少し考えるような素振りをする。
「うんと、もしネットでの繋がりを求めるのなら、ソシャゲよりも、パソコンとかでやるオンラインゲームのほうがいいかもね」
「オンラインゲーム?」
「うん」
「異世界転生して、俺つえーになるあれ?」
「そうそう。まぁ、チートなんてしたら絶対ダメだけどね。めっちゃ強い人いるけど、それはそれだけの努力をしてきたからなの。チートはそんな努力する人たちを馬鹿にする行為だからね。許されるものじゃないよ」
チート、ダメ、ゼッタイ、と言わんばかりに新谷さんは真面目な顔をした。何かいやな目にでもあったのかもしれない。
「ふぅん」
まぁ、チートなんてする知識もやる気もないので、僕は軽く流しながら、オンラインゲームについて考える。ラノベもアニメも好きなので、その存在は知っている。
いや、知っている? ほんとだろうか?
とりあえず僕にある知識は、パソコンで遊ぶオンラインゲームがあるということくらいだ。オンラインゲームをまともにやったことのない僕としては、正直、どんなものなのかあまり想像できなった。
チャットで会話? 今ならボイスチャットが主流なのだろうか?
知らない人と話す。それって怖くしか思えない。右も左もわからないゲームで迷惑かけるかもと思うと、それだけで嫌になるし、そもそも何話せばいいのさ。学校で友達すら作れていない僕には無理だよ、そんなの。
でも……。
頭に浮かんだのは、ソシャゲ仲間との交流だった。
彼らとは別に、現実での知り合いだったわけではない。
それでも、僕らは仲良くなれた。ゲームという同じ話題の中で、僕らの心の距離は縮まっていったんだと思う。
もう一度あの関係を築こうと思うと、とても面倒くさく感じる。
知らない人と関わるのに、どれだけの勇気が必要だっただろうか。
でも、僕は忘れられない。
初めて交わした言葉は怖かったけど、同時にわくわくしていたことを。そして、皆で協力し合った楽しかった日々を。
「ねぇ、新谷さん」
「ん?」
「おすすめのゲームってある?」
これが僕の、オンラインゲームをはじめるきっかけだったのだと思う。
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