プロローグB:時空のおっさん、救世主となる決意をする
「うへぇ、間違いなく厄介事が起こる気配がするな、この感じは……」
安物のカップラーメンを食べながらメールを確認して、イフネ・ミチヤはそうぼやく。
イフネ・ミチヤ。彼の仕事は業界用語でいうところの『時空のおっさん』。
その業務内容は、近年増加傾向にある『異世界に迷い込んだ人々』の転移の阻止、あるいは連れ戻すことである。
だが、どうやら今日の仕事は内容が少し異なるらしい。
「なに? 仕事? またどこかのボンクラが異世界に迷い込んだの?」
「いやいや、それが逆なんだよな、今回は。どうやらどこかのボンクラがこの世界に入り込んできそうらしい……。まったく、面倒臭さが半端じゃないなんだよなあ、この手の案件は」
イフネは言いながら食べかけのカップラーメンを片付け、かわりに何枚かのカラフルなカードを机に並べてにらめっこを始める。
これこそがイフネ・ミチヤの商売道具であり、チート能力の根底をなすアイテムなのである。
「面倒って、わざわざ異世界に行って向こうでなんかしてくるほうがよっぽど面倒だと思うんだけど、違うの?」
アシスタントフェアリーのエリアリのもっともな疑問に、イフネは小さく肩をすくめてため息をついてみせた。
「異世界はいいよ。気楽なもんさ。
そして心底嫌そうに、もう一度ため息を吐く。
「しかも相手は価値観も発想も異なる完全な異世界人だぞ? おかげで
そんなふうにして、世界の危機に挑む正義のヒーローは、背中からにじみ出る焦燥感以外はただカードで遊んでいるだけにしか見えないながらも、必死に頭を働かせているのである。
「で、受けるの? その仕事」
「そりゃまあ、地元にそんな物騒なものが現れるなら、
ようやくカードの選定が終わり、イフネはゆっくりと立ち上がる。
そして部屋着の寝間着から、最低限の外出できる服装へと着替えを始める。
戦いの舞台がこの世界であろうと、彼のスタイルは変わらない。
それはある意味この世界において一番正しい姿であるし、もっとも場違いな姿でもある。
「はぁ……。じゃあいっちょ、救っちゃいますか、世界」
わざとらしくそんな掛け声を口に出し、イフネはゆっくりと立ち上がる。
その救世主は、相変わらずの安物のジャージに身を包んだままであった。
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