異世界のプロ対異界の獣魔王姫
シャル青井
プロローグA:魔界の星降らせ姫
ここは、大いなる闇に覆われし世界。
その闇に星が落ちるのは、誰かの生命が終わりを告げた時。
その日は、星が雨のごとく降り注いで消えた。
「こ、これが、獣魔神姫の力だというのか……」
男は震え、慄き、声を絞り出す。
彼の周囲には積み上げられた屍体の山。
それらはすべて、彼と同じく獣魔神姫討伐隊だったものである。
そして彼がその唯一の生き残りとなった。
いや、生き残ったのではない、生かされたのだ。
彼の眼に映るのは、目の前の一人の少女。
黒を基調とした鎧と、それと対称的な真っ白な肌と髪。
見た目は十代中頃だろうか、一見すればあどけない少女にしか見えない。
だが一つ、彼女には決定的な違いがある。
頭部の耳の上に生えた、緩やかな曲線を描く漆黒の角。
人間ではなく、この世界を支配する種族の象徴だ。
恐るべき支配者、フロストフォール族の証。
しかも彼女の角は、ひと目見ただけでそこに強大な魔力を帯びているのがわかる。
彼女こそが『獣魔神姫』カウヴァリス。
この世界で最も星を降らせる存在であった。
「故郷へと帰れ、哀れな猿の
立ち尽くしていたその唯一の生存者は、冷たき声が耳に届くとそのまま後ずさりし、反転して走り出す。
カウヴァリスはそれを見送り、そして大きく息を吐く。
彼女の勝利は、いつもただ虚しさだけが残るものだった。
戦いを終えたカウヴァリスは己の居城の一室である準備を整えていた。
最強の魔力と力を持ってこの世界を支配し続けるカウヴァリスの力の源は、彼女の祖先がかつて交わしたいくつかの契約である。
古に彼女の祖先がある古龍と交わしたという契約。
その契約内容とは、彼女が星を降らせた際、その星に最も近い異世界へと赴き、そこの世界の住人の願いを一つ叶えるというものであった。
とはいえ獣魔神姫の魔力があればたかが人ひとりの願いなど些事にも等しく、彼女にとってその契約もある種の気晴らし程度という認識にしか過ぎなかった。
そしてカウヴァリスは、部屋の隅に置かれた一つの水晶玉の元へと向かう。
その中に映るのは、青と緑の斑模様を持つ球体。
「ふむ、これが次の世界というわけか。猿の世界らしいが、まあせいぜい、私を楽しませてくれ」
そして彼女は、水晶玉の中にあった、青の中に浮かぶ小さな曲線を指差す。
彼女の新たな目的地。
そこは地球と呼ばれる惑星の日本という国家だった。
そうして伸ばした指が水晶に触れると、カウヴァリスの身体はその指先から白い粒子となり、そのまま水晶の中へと吸い込まれる。
その先でカウヴァリスを待つのは、果たして勝利か、敗北か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます