ハムスターの生態から学ぶ、物語の作り方

 これはハムスターの物語である。つまり、ハムスターの行動を通して、物語の構造を学んでしまおうということである。

 物語というのは、単純に

「行って、帰ってくる」

 ということである。これはどういうことかというと、ハムスターはケージの中にいる。

 しかし、ある日ハムスターは思ってしまった……

「あぁ~、外に出てイケてる雌と交尾してぇ~~~」

 これが物語の始まりである。つまり、主人公が何か動機をもち、ケージの外に出てしまう。

 ケージ=日常から出て行ってしまうのだ。

 これを「越境」と呼ぶかどうかは知らない。

 とにかく、越境したのちに待っているのは番犬ならぬ番猫である。

「吾輩は猫であ~る!」

 

 猫は若干男塾かぶれだった。

「うわ、猫とかマジきいてねえわ……」

 そう、これが第一の門、最初の難関である。敵でもいいし、中ボスでもいい。とにかく外に出た主人公は、何か試練にぶち当たる。

 この最初の困難こそ「番犬」である。ここでは猫という生き物だが、別に人でもモノでも何でもいいだろう。

 とにかく、ハムスターはその猫から命からがら逃げ延びる。そこで次の関門だ。

 とりあえず、外で何か発見する。

 それは何でもいいが、ここではひまわり畑を発見したとしよう。ハムスターは例外なくひまわりの種が大好きだ。ドワーフもゴールデンも変わらない。

 歓喜しながら頬袋にひまわりの種を詰め込みだすハムスター。

 しかし、そこに影が忍び寄る……

 そう、野良ハムスターたちだ。このひまわり畑は、彼らが一生懸命に耕して作ったものだ。いきなり新参者に奪い取られて、彼らは激怒した。

「おい、おめえ、何やってんだ?! オラたちの大切な種を奪いやがって……!」

「いえ、そんなつもりじゃなかったんです! なんでもします、ゆるしてくだしあ!」

「え、今何でもするって……?!」

 ハムスターは「しまった!」と内心思ったが、時すでにお寿司。

 しかし住民からの要望は切実だった。

 実は、ここの畑を荒らすものがいるという。それで困っているのだそうだ。だからハムスターにそいつをどうにかして欲しい。してくれなければひまわりの種の殻剥き一万個で勘弁してやる、と言われた。

 餃子一日100万個よりはマシだが、それでも気が遠くなるような作業量に、想像するだけで吐き気がしてきたハムスターは、二つ返事で引き受けてしまう……

 そう、これが第二の難関である。外で新しいキャラに出会い、そこから何か事件なりストーリーなりが展開されていく。

 ハムスターはそんなことをつゆ知らず、そもまま討伐を引き受けることにした。

 どうせ無理だと思ったら、逃げればいいからだ。ていうか、むしろ速攻で逃げ出した。

 これもまた、一つの物語展開である。

 もし屈強な戦士なら戦ったであろう。しかし、ハムスターはただのネズミみたいな生きモンである。そんなプライドなどミジンコほどもないので、さっさと逃げ出すことにした。

 さて、一応これでも物語は進んでいく。ハムスターは、人間の女の子に出会うことに成功する。そして、必死に可愛いポーズをとって、女を篭絡してしまう。

 つまり、ヒモになったのだ。ひまわり畑のメンツのことや、依頼などは、すでにハムスターの少ない脳細胞の中に残っていない。狭い本棚にたくさん本を入れようとすると、どうしたってはみ出てしまう。そういうことが、今ハムスターの脳内で起こっていることだ。

 やがて、ハムスターが忘れたころ……奴がやってきた……

「吾輩は、猫であ~る!」

 そう、奴だったのだ。

「きゃー、ミーちゃん帰ってきてくれたんだ?!」

 ハムスターは、おいおい、俺の女だぞ、と思ったが、時すでにお寿司。

 このまま、どうにかして時を過ごさないといけない。

 さすがに猫と同居は嫌だった……

 飼い主が早速買い物などで出かけると、すぐに猫がニューロ光より速い光速で寄ってきた。

「ねぇ、一緒に遊ぼうよ!」

「……」 どうも、この猫は女の子のようであ~る!

「ねえってば!」

「……ったく、しょうがねえな、一回だけだぞ?」

「わーーーい!」

 しかし、猫にとっては遊びでも、ハムスターにとっては自然災害だった。

 ミーちゃんがじゃれつくつもりで放った猫パンチは、ハムスターを吹っ飛ばした。ベランダを越えて吹っ飛んでいくハムスター。しかし、ハムスターの皮膚は柔らかく、うまいこと植物の葉や茎に衝突、いい具合にクッションになった。

 これをご都合主義と呼び、あまり多用すると読者が遊んでくれなくなるから注意しよう。でもそういうご都合主義も、ある程度必要である。なぜなら、小説とは結局はフィクションだからだ。ご都合主義のない物語を楽しみたい方は、すぐにブラウザバックして、現実にお戻りくださいとしか言いようがない。

 さて、吹っ飛んだハムスターはぼんやりとこう考えていた。

「あ~、せっかく居心地よかったのに、あのクソ猫がぁ~! そろそろヒロインとか出てこねえのかよ!」

 残念だが、この物語では出てこない。そんなご都合主義みたいにうまくいくことはない。これはメタ発言とも言う。こういう風な感じのメタ風発言は、ラノベとか軽い雰囲気な作品で使ってみると面白いかもしれない。ただ、ご都合主義と同じく、使いすぎると諸刃の刃となってしまうので注意しよう。

 とにかく、ハムスターはまたしてもひまわり畑へと戻った。別に覚えていたわけではない。むしろ覚えていたら気まずさがあるから、戻らなかっただろう。

 全てを忘れていた。このひまわり畑があったことすら。

 では、なぜ戻ってこれたのか。それはハムスターの嗅覚にある。人間の数万倍あるかどうかはグーグル先生にでも聞いていただくとして、嗅覚に優れたハムスターだから、臭いで大好物のひまわり畑を探り当てたのだ。

「お、うまそうなやつがいっぱいあんじゃん!」

 そう思ってひまわりの種にむさぼりつくハムスター。今回はお腹がすいていたので、頬袋に詰めるだけではなく、胃袋にも詰め始めていた。

「う~ん、これは中身が詰まってないからいらねえな」

 ハムスターは贅沢な生き物なので、たくさんの餌を与えると”厳選”するようになる。ひまわりの種の中から、悪い種を捨て、いい種だけ選り好みし始めたのだ。

 こういうことは、人間である君たちにはあまりして欲しくない。小説を書くためのストーリー講座ということだが、小説を書く以前にこういう礼儀やマナーは大切だ。

 しかし、ハムスターにはそれはない。

 臆面もなくひまわりの種を頬張り続けるさなか、種の厳選にも余念がない。スマホゲーマーが重課金しながらレアカードを厳選しているようなもんだが、人間が動物だった頃から受け継がれている本能かもしれない。

 さて、それを見て怒り心頭だったのは、ひまわり畑の野良ハムスターたちである。

 ただでさえ畑を泥棒されてムカつくのに、厳選までされた日には、そらそうであろう。

「おい! お前、また泥棒しやがって!」

「え?!」

「え、じゃねえよ。もう覚えてないのかよ」

「ぼく、またなにかやっちゃいました?」

 かわいい顔で愛嬌を振りまく。人間の家にいたときは、それで人間は何でも許してくれた。

 そう、人間ならね。

「お前、そんな顔しても許さねえからな! うおおおおおお!!」

 すると農民ハムスターAは、体の中にあるひまわりパワーを全開させた。

 ここで少し説明しておかなければいけない。本当はこういう説明は省くべきなのだが、あまりに省きすぎると意味不明になってしまうので、適宜挿入していく感じでいいだろう。

 一番の悪手は、最初に説明や設定を並べてしまうことであろうか。やはりそれでは読む気が失せる。

 つまり、この小説っぽい何かも冒頭で少し説明してしまっているので、寛容な心で許して欲しいということだ。

 さて、この農民ハムスターAの放つ気のことだが……

 ひまわりは常に太陽の方を向いている。つまり、太陽のエネルギーを常に受けているということだ。そうやって取り込んだ太陽エネルギーは、最終的に種に集約されることになる。夜行性のハムスターだが、全ての生物は太陽エネルギーを直接・間接的に摂取することで生きている。

 少し、順を追ってさらに説明してみよう。植物は太陽エネルギーを光合成によって直接取り込んでいる。草を食べる牛は、草を食べることで間接的に太陽エネルギーを摂取している。

 そこでハムスターの話に戻るのだが、ハムスターは夜行性である。つまり、普段は太陽のもとで活動していない。しかし生物であるので不足した太陽エネルギーを補わなければならない。

 なので、太陽エネルギーがより凝縮されたひまわりの種を摂取することで、太陽エネルギーを補給しているというわけだ。

 かなり長い説明になってしまった……これもできるだけコンパクトな説明にしよう。頬袋に餌を詰め込んだハムスターは醜い。説明を詰め込み過ぎた物語も同様である。説明はストーリーではない、というのを頭に叩き込んでおこう。君たちの脳みそはハムスターより高級品であるはずだ。

 そう、太陽エネルギーの話だった。

 太陽エネルギーを放出させ、黄金に輝き出す野良ハムスターA。(ちなみにBは出てくるか不明)

 これほどの太陽エネルギーの発散は、夜行性動物では不可能なのだが、それを可能にしたのが、そう、“ひまわりの種”である。しかもこの畑で使われているひまわりの種は、最強のひまわりの種なのだ。

 そういう設定だから、突っ込まないで欲しい。

 太陽エネルギーが超高濃度で凝縮されており、それを日常的に摂取している野良ハムスターAの体内には、当然ながら太陽エネルギーが十分に蓄えられていた、ということになる。

 黄金に輝く野良ハムスターは、その名の通りゴールデンハムスターと化していた。

 「ふ、待たせたな……これがハムスターを超えたハムスター、スーパーハムスターだ……!」

 これはドラゴンボールである。ドラゴンボール世代なのでしょうがないと思って諦めて受け入れて欲しい。

 しかし、創作していくうえで「他作品の影響」というのは避けては通れない。これは微妙な問題になるが、あからさまにやりすぎると盗作になるが、このようにセリフを一個パクったくらいではパクリにならない(と信じたい)。

「おまえに、どうしても超えられない壁というのを教えてやろう……!」

 二個でもいいんじゃないかな? そこらへんは適当に自分なりに加減してやって欲しい。

「にゃ~ん! 吾輩は、猫であ~る!」

 そう、やつがやって来た。

 これは一応、ラスボス戦である。

 このラスボスに関しては、別のラスボスを用意してもいいが、このように最初のボスとの再戦であってもいい。

 ようするに、最後に何か盛り上がる難関を入れて欲しい、ということだ。やはり「何の障害もなく家に帰りました」では物語として盛り上がりに欠けるだろう。オチが必要、ということだ。

 さて、猫vsスーパーハムスターとの戦いであるが……

「クソ……もうおしまいだぁ……勝てるはずがない……」

 さっそく挫折し始めたスーパーハムスター。主人公のハムスターは、その様子を特に何の感情もない目で眺めていた――ように見えるが、内心では恐怖でちびりそうになっていた。

 そう、ハムスターが猫に勝てるわけがないのである。

 「ようし、じゃあ遊ぼうよ!」

 猫が全力でラリアットをしたら、スーパーハムスターはどこかの岩盤へ吹っ飛んでしまった……

 一通り遊び終わった猫は、そこらへんを見渡した。あの主人公ハムスターを探していたのだが……

「あれ、いない……」

 ここで猫は困ってしまった。せっかくの友だちが消えてしまったのも残念だし、飼い主のためにも探しに来たのだが……

 実は、ハムスターはスーパーハムスターがやられている間に、すでに逃げてしまっていた。しかし、ハムスターの脚力では、そこまで遠くに逃げたわけではない。

 このときは、まだ近くにいたのだ。

 しかし、ハムスターの能力の一つに、「足音を立てずに走れる」というのがある。これにより、人間の背後に全くの無音で回り込むという芸当が可能になる。

 さらにハムスターの体は想像以上に平べったくなれるので、狭い場所に隠れたり、隙間からすり抜けたりできる。

 このときも、ハムスターは近くながらも、巧妙に隠れていたのだ。その内、猫が飽きたのか、少し残念そうなオーラを漂わせながら、その場を立ち去って行った。

 さて、こうやって最後の試練を乗り越えたハムスターだが、今度は大人しくケージに帰ることにした。

 幸い、ハムスターには帰巣本能があるので、本来の飼い主の家まで無事に戻ることができた。

 飼い主はようやく帰ってきたハムスターに怒りながらも、無事帰ってきて安堵したのもあり、またハムスターの可愛い顔に騙されて、ケージの中にハムスターを戻した。

 そう、ハムスターの最強の能力、それは人間にかわいいと思わせる能力であろう。

 ケージに戻ったハムスターは、餌箱に入った餌を頬張りながら、巣箱に戻った。

 やっぱり、わが家が一番だわ……

 ハムスターはそう思いながら、16時間ほど爆睡したという。



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