第11話 エピローグ

「はぁ~っ、ついてないなぁ……」

「あきら、それ何度目のため息?」

「だって~」

「だってじゃないでしょ? じゃあお母さん帰るから」

「薄情者~」

「はいはい、そう言うことはカレシでも作ってそっちに言ってね」

「あう~~~、お母さんのイジワル~」


――ばたんっ!


 あれから三日。

 あれからって言うのは、いろいろあったわたしの誕生日から。


 真っ白な壁、真っ白な天井。

 窓の外は澄み切った青い空。


 今、わたしは入院してる。


 三日前のあの日。

 あの日、わたしはめぐみと……。


 …………?

 そう友達の小室めぐみと二人で隣町の神社の花火大会に出かけた。まぁ、誕生日だって言うのに女二人で花火大会っていうのも悲しいものがあるかもっ……て思ったりもしたわけなんだけど。


 で、不幸にも神社の石垣が崩れて、わたしもめぐみも全治3週間の大けが。


「はぁ……ほんと、ついてないよね」


 わたしは布団に潜り込んだ。もう、こうなったらふて寝しかないよね! クーラー完備の個室に入院できるだけでも感謝するべき……?

 でもやっぱりついてないよね、はぁ……。


『あらあら、まぁまぁ……それはご丁寧に、ええ』


 なんか、部屋の外でお母さんが誰かと話をしてる……関係ないか。あ~あ、こんな事なら告白、しとけばよかったかなぁ……。わたしは布団の中でそんなことを考えていた。


――がちゃっ。


 誰か入ってきた?

 お母さんかな?

 忘れ物?

 まぁ、いいか……今日は薄幸の美少女を演じることに決定。

 ……布団の中でだけど。


「寝てるのか……。まぁ……その方が都合がいいかもな」


――えっ? だれ? 男の人の……声?


「あきら……じゃない、二ノ宮。もし聞こえてるなら、何も言わないで聞いていてほしい」


 この声って……もしかして、結城君?!

 なんで?!

 どうして?!


「俺……お前のこと、好きだった」


 え~~~~~~~っ!?

 なにがどうなってるの?!

 結城君が……わたしのこと、好き?!


「でも……俺……好きな人がいるんだ」


 がーーーん……いきなり失恋?!

 もう……わけわかんないよ。

 何がどうなってるの?

 悪い冗談?

 びっくりカメラかなにか?

 ……そんなわけないか。


「その人は……。そのひとはずっと俺のことを見ていてくれて、これまでずっと俺のことを守っていてくれたひと、なんだ」


 ……。

 なんだろう?

 なぜだかわかんないけど……すごく……心が……イタイ?

 どうして?

 なにか……?

 なにかが……おかしい……?


「お前はもう……覚えてないかもしれないけど……」


――ドクン。

 覚えて……ない?


「俺、その女性ヒトのこと守りたいんだ。これからをずっと……一緒に歩いていきたいって思ってる」


――ドクン。

 結城……拓人?


「今から俺、そのひとに……俺の気持ちを伝えようと……思ってる。今度はちゃんと言葉にして、俺の想いを伝えようと……思ってる」


――とくん、とくん。

 胸の奥がじんじんする。

 なんで……?

 どうして……?

 おかしい……おかしい、よ……。


「そう思わせてくれたのはお前のおかげだから。だからその前に、どうしてもお前に言葉で伝えないといけないことがあるんだ」


 たく……と?


――――宿題、一緒に――。


「お前のこと……あきらのこと……」


――――結城君のことが――。


「――好きだった」


『拓人のことがほしいの』

『拓人の全部が……ほしいよ……』

『止まらないよ、止められないよ!』


「でも……さよなら、だ」


――――――――――っ?!




「拓人っ!?」

「わっ!? びっくりした~」

「あれ……おかあ……さん?」

「……なにを急にそんな大きな声……って、泣いてるの?」

「えっ……?」


 わたし……泣いてた?

 それより……今のってなに?

 結城君?

 どうして……?

 夢……だよね?


「そういえば、さっきお友達がお見舞いに来てくれたわよ」

「そうなんだ……」

「しかも男の子よ~~! あきらも隅に置けないわねぇ。こんな高いお花をお見舞いに持ってきてくれる男の子がいるなんて」


 さっきからいじってたのは、そのお見舞いの花だったんだ。


「カサブランカのブーケよ? あきらにはもったいないわよねぇ」

「もったいないって……それがけがをして寝込んでいる娘にいう言葉?」

「まぁまぁ、その娘さんにカレシができたなんて聞いてないわよ?」

「わたしも……できたなんて知らないし」

「……」

「そのお花持ってきてくれた人って……なんて言う人? 名前くらい聞いたんでしょ?」

「……そう言えば……名乗らなかったわねぇ?」

「……」

「えーっと。このお花、花瓶に生けてくるわね」


――バタン。


 逃げたな。

 はぁ……。

 静かになった部屋。

 何気なく枕元に目をやると……一輪の花が置いてあった。

 お見舞いの花から落ちたのかな?


「これって……タンポポ?」


――でも……さよなら、だ。


 頭の中で、さっきの言葉がリフレインした。


「なんで、こんな時に限って……こんなきざったらしいことするかな……」


――がちゃ。


「ただいまぁ~。ほら、あきらきれいよ~」

「タンポポの花言葉はさよなら……だよ。やっぱり、そうなんだよね……。わたし……ふられちゃった……んだよね」

「あきら……?」

「お母さん……わたし、ふられ……ちゃった……」


 わたしは、枕元に置いてあったタンポポを手にとって見つめながら。そしてもう見てられなくて、布団に顔を埋めて……それ以上何も考えられないよ……。考えたくないよ……。


「ふ~ん、タンポポ……か。よくこんなの見つけてきたわねぇ……フフ」

「笑い事じゃ……ないよ……」

「でもね、あきら……。タンポポって、さようならって言う意味もあるけどね」

「……」

「タンポポの種が風に乗って、飛んでいくでしょ? そしてまた、別れた人に出会うことができるって……そういう花なんだと、お母さんは思うな」

「お母さん?」

「だから、また逢う日まで……さようなら、またねって」

「……おかぁさぁぁぁぁんっ!」

「この子はもう……17にもなって……」


 わたしは……思いっきり泣いた。

 今は……まだ、強くなれないけど。

 泣ける間はまだ大丈夫だよ。

 だから、今はさようなら。


 そう。

 わたしの気持ちは……わたしの想いは……無くなることはないんだ。

 わたしの想いはこれからも続いていくから……だから……。


 いつか絶対振り向かせてみせるんだからっ!

 覚悟してなさい、結城拓人!

 絶対……絶対、イイオンナになってやるんだからっ!

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